一行を、しまっておくのは、もったいない
こんにちは、あなたらしいキャリアの一歩を、一緒に考える【あおラボ】です。
10月の連載で、君は自分の強みを一行にした。動詞を50個書き出し、読み解き、言い切るところまで、たどり着いた。それは、簡単な作業ではなかったと思う。
ところが、せっかくの一行を、ノートに書いたまま、しまい込んでいないだろうか。「できたから、一安心」と。あるいは、ESの欄を前にすると、一行をどこに置けばいいのかわからなくなる、という声も訊く。
一行は、使われて初めて、本当に強いかどうかが確かめられる。今日は、その一行をES・面接の質問に持ち込む方法と、強みを証明する「場面」の選び方を、一緒に考えていきたい。
Chapter 5 一行は、質問の中でこそ、働く
10月にできた一行は、まだ、君の頭の中だけにある言葉だ。それを、他の人が読む文章や、他の人と交わす会話の中に出したとき、はじめて、強みとして機能し始める。まず、なぜ「持ち込む」ことが大切なのかを整理しておく。
5-1 一行は、使われて初めて確かめられる
どんなに丁寧に書いた一行でも、書いた時点では、まだ仮の言葉だ。実際に人に伝えようとして、はじめて、ぐらつく部分が見つかる。
あおラボが学生と接していても、自己分析のノートはきれいにできているのに、いざ面接の練習で口に出すと、言葉が続かない、という場面にしばしば出会う。それは、君の自己分析が足りないからではない。書く言葉と、話す言葉は、使う筋肉が違うのだ。
だから、一行を質問に持ち込む作業は、「使う」ことであると同時に、「確かめる」ことでもある。質問に当ててみて、ぎこちないところがあれば、それは一行を磨くための手がかりになる。
一行は変わってよいものだ、と10月で書いた。質問に持ち込んで見つかった違和感は、変えるべき場所を、正確に教えてくれる。使ってみることが、いちばん確かな点検になるのだ。
5-2 一行は、質問の数だけ、顔を変える
ESや面接では、いろいろな形で質問される。自己PR、ガクチカ、長所と短所、志望動機。表現は違っても、どの質問も、結局は「君はどんな人か」を、別の角度から訊いている。
ここで大切なのは、質問ごとに別の自分を用意しないことだ。質問が変わるたびに、新しい強みをひねり出そうとすると、回答した全体がばらばらになってしまう。
一行は、いわば、一本の軸だ。自己PRでは、その軸そのものを語る。ガクチカでは、軸が発揮された場面を語る。長所と短所では、軸の表と裏を語る。質問によって見せる面が変わるだけで、中心にある軸は、同じものだ。
こう考えると、準備は、ぐっと減る。質問の数だけ答えを作るのではなく、一本の軸を、質問ごとの角度で見せる練習をすればいい。軸が一本だから、どの質問にも、君らしさが通る。
5-3 聞き手には、一行の中身が見えていない
ここで、少し落とし穴の話をしたい。君にとって、一行は意味が詰まった言葉だ。その言葉を書くまでに、50個の動詞を書き、何度も削った経緯を、君は知っている。
けれど、聞き手は、その経緯を知らない。スタンフォード大学のエリザベス・ニュートン氏が1990年に行った「タッピング」の実験が、よく知られている。一人が有名な曲のリズムを机で叩き、もう一人がその曲名を当てる。叩く側は、聞き手が約半分は当てると予想したが、実際に当たったのは、120曲のうち3曲、つまり2.5%だった。(チップ・ハース氏とダン・ハース氏の著書『アイデアのちから』で紹介されている)
叩く側の頭の中では、曲が鳴っている。だから、聞き手にも伝わると思い込む。一行も、同じことが起こり得る。君の頭の中では意味が鳴っていても、聞き手には、ただの短い文に聞こえてしまうことがある。
だから、一行を質問に持ち込むときは、中身が聞き手に見える形にする工夫が要る。その工夫の中心になるのが、次の項で触れる「場面」だ。
5-4 一行は、証拠を添えて、初めて届く
「私は、人の話を聴いて、まとめる人間です」。一行だけを聞かされた面接官は、どう感じるだろうか。悪い印象は持たない。けれど、同じことを言う学生に、何人も会っている。
そこで必要になるのが、証拠だ。裁判でも、主張だけでは判断されず、証拠が求められる。強みも同じで、一行は主張であり、それを支える場面が証拠になる。
証拠といっても、大げさなものは要らない。「ゼミの話し合いが止まったとき、意見を一つずつ聴き取って、黒板に整理した」という一場面で十分だ。聞き手の頭に、君の姿が浮かぶかどうかが、基準になる。
一行と場面は、セットで届く。一行だけでは、軽い。場面だけでは、何を伝えたいのかが、ぼやける。両方がそろったとき、強みは、はじめて「証明された」と言える状態になる。
Chapter 6 質問ごとに、一行を持ち込む
一行が軸だとわかったところで、具体的な質問に、持ち込んでみる。ここでは、ESや面接で最も多く出る4つの質問を取り上げる。どれも、やることの根本は同じだ。軸を、質問に合わせた角度で見せる。
6-1 自己PR 一行を、そのまま入口にする
自己PRは、一行をもっとも直接に使える質問だ。書き出しに、一行を置けばいい。「私の強みは、〇〇することです」と、言い切るところから始める。
そのあとに、場面を一つ続ける。いつ、どんな状況で、その強みが発揮されたのか。聞き手は、最初の一行で「何の話か」をつかみ、続く場面で「本当らしさ」を確かめていく。
10月に作った一行を、そのまま使ってよい。ただし、書き言葉の一行は、声に出すと硬く聞こえることがある。ESでは書き言葉のまま、面接では少しだけ話し言葉に寄せる。意味を変えず、息継ぎのしやすい形にする、という程度の調整だ。
字数に余裕があれば、最後に一文を足す。その強みを、入社後にどんな形で活かしたいか。ここは詳しく書かなくてよい。一行と場面で「どんな人か」、最後の一文で「これからどうしたいか」が伝われば、自己PRとして十分に成立する。
6-2 ガクチカ 一行が発揮された場面を、選ぶ
「学生時代に力を入れたこと」は、題材選びで悩む人が多い。大きな成果がないから、書けない、と。けれど、持ち込む軸があれば、迷いは小さくなる。
選び方は、シンプルだ。一行に書いた強みが、いちばん発揮された経験はどれか、と考える。成果の大きさではなく、一行との重なりで選ぶ。アルバイトの小さな工夫が、全国大会の出場より、君の一行をよく表すことは、珍しくない。
題材が決まったら、その経験の中で、一行の動詞がどこに現れたかを探す。「聴き取る」が一行にあるなら、誰の話を、いつ、どのように聴き取ったか。動詞が見つかる場面が、ガクチカの中心になる。
こうして選ぶと、ガクチカと自己PRが、同じ軸でつながる。二つが別々の話だと、聞き手は「結局、この人はどんな人なのか」と迷う。同じ軸が通っていれば、どの質問からも、同じ君が見えてくる。
6-3 長所と短所 一行の表と裏を、語る
長所と短所は、一行の「表」と「裏」を語る質問だと捉えるといい。長所は、一行そのもの。短所は、その一行が行き過ぎたときの姿だ。
たとえば、「相手の話を丁寧に聴く」という強みがあれば、行き過ぎたときは、「結論を出すのに時間がかかる」という形で表れるかもしれない。強みと短所は、同じ根っこから出ている。10月の連載で、偏りは欠点ではない、と書いたのは、このことだった。
だから、短所を、長所と無関係な別の話として用意する必要はない。一行を見つめ直して、「これが過剰になると、どうなるか」と考えてみる。そこに見つかったものが、君の短所であり、しかも、嘘のない短所だ。
短所を語るときは、それとどう付き合っているかまで添える。「結論の期限を先に決めてから、話を聴くようにしている」。ここまで言えれば、短所の質問は、むしろ、君の自己理解の深さを示す場になる。
6-4 志望動機 一行を、会社への橋にする
志望動機は、一行が、会社と君をつなぐ橋になる質問だ。ここでも軸は同じ。君の強みが、その会社の仕事のどこで活きるのか、を語る。
まだ企業研究が十分でなくても、構わない。企業研究の深掘りは12月に扱うことにする。今の段階でやるのは、一行を持って、会社の仕事の中身を観ることだ。「この仕事の場面で、私の一行は、どう働くだろう」と、想像してみる。
「御社の理念に共感しました」だけの志望動機は、どの会社にも当てはまってしまう。けれど、「私の〇〇する力は、御社の△△という仕事で、このように発揮されると考えます」と言えれば、その会社だけに向けた言葉になる。
志望動機が書けない、という悩みの多くは、会社の情報が足りないからではなく、自分の軸が、会社の仕事と結びついていないことから生まれる。一行があるから、結ぶ作業ができる。10月の作業が、ここで効いてくる。
Chapter 7 強みを証明する、場面の選び方
一行を質問に持ち込むとき、最後に決め手になるのは、場面だ。場面が選べれば、答えは半分できたようなものだと思う。ここでは、場面とは何か、どう選ぶか、見つからないときはどうするか、を整理する。
7-1 場面とは、「その時、その場所」の出来事である
「場面」と聞くと、特別な出来事を想像する人がいる。けれど、場面は、もっと小さくていい。「いつ」「どこで」「誰と」「何が起きたか」が、一つの絵として思い浮かぶ出来事、それが場面だ。
「部活でチームワークを大切にしました」は、場面ではない。方針に近い。「県大会の前日、練習の方針が割れたとき、全員の意見を一人ずつ訊いて、練習メニューを作り直した」は、場面だ。聞き手の頭に、映像が浮かぶからである。
映像が浮かぶかどうかが、見分け方の目安になる。ある出来事を、友人に話すつもりで思い出してみる。その場にいなかった人が、情景を思い描けるなら、場面になっている。
場面には、君が「どう動いたか」が、含まれていることも大切だ。出来事の説明だけで終わると、君の姿が見えない。何が起きたかの次に、君が何を考え、何をしたかまで語って、はじめて強みの証拠になる。
7-2 小さな場面ほど、本当らしく聞こえる
場面というと、派手な出来事を選びたくなる。けれど、面接官の立場で考えると、大きな話ほど、疑わしく聞こえてしまうことがある。何百人を動かした、売上を数倍にした、という話は、どこまで本人の働きなのかが見えにくい。
反対に、小さな場面は、細部が具体的になりやすい。アルバイト先で、新人が戸惑っていたとき、メモを一枚作って渡した。そこには、君が何を観て、どう判断したかが、そのまま入っている。小さな場面ほど、君の動き方が、はっきり見える。
あおラボが学生と接していても、本人は「こんな小さなことで良いのか」と迷った場面のほうが、あとで話を訊いてみると、一番その人らしかった、ということがよくある。
だから、場面を探すときは、大きさを基準にしない。「そのとき、自分で考えて動いた」という手触りがあるかどうかで選ぶ。手触りのある場面は、話すときの言葉にも、自然と力が入る。
7-3 一つの強みに、場面を三つ集める
一行が決まったら、その一行を支える場面を、三つ探しておくことを勧める。一つだと、たまたまの出来事に聞こえることがある。三つあると、その強みが君の「くせ」であることを示せる。
三つは、できれば、違う領域から選ぶ。たとえば、アルバイト、ゼミ、サークル。場所が違っても同じ一行が現れるなら、それは場所に左右されない力、つまり持ち運べる力だと言える。10月の連載で扱った、コンピテンシーの考え方と同じだ。
三つを集めたら、使い分けができる。ESには一つ、面接の深掘りでは別の一つ、「他にも例はありますか」と訊かれたら三つ目。場面が手元にあると、質問が変わっても、慌てずに済む。
ただし、一度に三つ完璧に仕上げる必要はない。まず、短いメモで構わない。「いつ・どこで・何をした」を一行ずつ書くだけで、使える材料になる。詳しく書くのは、使うことが決まってからでいい。
7-4 場面が見つからないときの、探し方
「場面を探しても、思い浮かばない」。そんなときがあるだろう。まず、安心してほしい。場面は、探すものではなく、思い出すものだ。思い出せないのは、記憶になかったのではなく、手がかりが足りなかっただけである。
手がかりとして効くのは、一行の動詞だ。「整える」が一行にあるなら、「最近、何かを整えたことはなかったか」と、動詞から過去を振り返る。10月に書き出した50個の動詞のリストも、そのまま手がかりになる。
もう一つは、人に訊くことだ。友人や家族に、「私が何かしていた場面で、覚えていることはある?」と訊いてみる。自分では当たり前すぎて気づいていない場面を、他の人が覚えていることは、案外多い。
それでも見つからなければ、いまは材料がない、と受け止めていい。それは欠点ではなく、これから経験する場所が見えた、ということだ。一行の動詞を、これからの日々で使ってみようと決めれば、それが新しい場面の種になる。

Chapter 8 今日から、できること
ここまで読んで、「やることはわかった」と感じてもらえたなら、うれしい。最後に、学年ごとの動き方と、今日の作業を整理する。
8-1 3年生は、一行を、ESの一つの質問に当てる
大学3年生の君は、秋冬のインターンと、(早期)本選考の準備が重なる時期にいると思う。ESを書く機会も、増えてくる頃だ。
そこで勧めたいのは、一行を、実際のESの質問に当ててみることだ。募集中のインターンでも、気になる企業の過去の設問でもいい。自己PRやガクチカの欄を一つ選び、一行と場面を使って書いてみる。完成させなくて構わない。
書いてみると、一行がそのまま使える部分と、手を入れたい部分が、見えてくる。それがこの作業の目的だ。あおラボが学生と接している実感としても、早く書き始めた人ほど、直す回数を増やせて、最終的な文章が落ち着いていく。
インターンの選考に出す場合は、そこでの質問への答えが、そのまま本選考の練習になる。うまくいかなくても、記録しておくといい。何が伝わり、何が伝わらなかったかは、次の準備の貴重な材料になる。
8-2 2年生は、一行と場面の「組」を作ってみる
大学2年生の君は、ESを書く場面は、まだ少し先かもしれない。それでも、今日の内容は使える。一行と場面を組にしておく練習を、いまのうちから始めてほしい。
一行を一つ決めて、その動詞が現れた出来事を、一つだけ思い出す。それをメモに書く。これだけで、「強みを場面で証明する」という感覚が、体に入る。
場面が見つからなくても、先ほど書いたとおり、それは、これからの課題が見えたということだ。たとえば、「ゼミやアルバイトで、一行の動詞を意識して動いてみる」と決める。残りの学生生活が、強みを育てる時間に変わる。
また、多くの2年生は3年生の夏にインターンシップ参加を考えていると思う。企業によってはインターンにも選考が行われる。だから、このような準備を2年生のうちから始めても、決して早すぎることはないのだ。
8-3 今日の作業 一行と場面を、組にして書く
今日の作業を、一つだけ提案したい。次の手順で、ノートに書いてみてほしい。
1つめ。10月に作った一行を、ノートの上のほうに書き写す。2つめ。その一行の動詞が現れた出来事を、思い出して、「いつ・どこで・何をしたか」を、3行で書く。3つめ。その出来事を、自己PRに使うか、ガクチカに使うか、長所と短所に使うか、いちばん合う質問を一つ選ぶ。
ここで、行動を確実にするための小さな工夫を紹介したい。ドイツの心理学者ペーター・ゴルヴィツァー氏は、1999年の論文「Implementation intentions: Strong effects of simple plans」(American Psychologist 54巻)で、「状況Xが起きたら、行動Yをする」という形の「if-thenプラン」が、目標の達成を助けることを論じている。
これを今日の作業に当てはめるなら、「夕食のあと、机に座ったら、ノートを開いて3行書く」と、あらかじめ決めておくことだ。やる気に頼らず、場面と行動を結んでおくと、動き出しが楽になる。所要時間は、15分もあれば足りる。
8-4 声に出して、一度だけ読んでみる
書き終えたら、最後に一つだけ、してほしいことがある。一行と、書いた3行を、声に出して、一度だけ読んでみるのだ。
黙って読むと、流れてしまう違和感が、声に出すと見つかる。息が続かない文、言いにくい言葉、聞き手に伝わらなさそうな言葉。そこが、直す場所だ。直すのは、その場でなくてもよい。印をつけておくだけで構わない。
スマートフォンの録音機能で、自分の声を録って聴き直す方法もある。恥ずかしく感じるかもしれないが、自分の声を聴くと、客観的に観られる。「思ったより伝わる」と感じる人もいれば、「ここは言い直したい」と気づく人もいる。
声に出して確かめた一行と場面は、書き言葉だけのときより、君の体になじんでいる。面接の場で、思い出そうとしなくても、自然に言葉が出る土台になる。完璧でなくていい。一度、声に出した、という事実が、君の準備を一歩進める。
今日のまとめ
10月に作った一行は、ノートにしまっておくものではなく、ESや面接の質問に持ち込んで使うものだ。使ってみて初めて、一行の強さと、直す場所がわかる。
質問ごとに別の自分を用意する必要はない。一行を一本の軸にして、自己PRでは軸そのものを、ガクチカでは発揮された場面を、長所と短所では表と裏を、志望動機では会社への橋として語る。
一行だけでは、聞き手に中身が見えない。強みは、場面という証拠を添えて、はじめて証明される。場面は小さくていい。映像が浮かび、君が考えて動いた手触りがあれば十分だ。
3年生は一行をESの一つの質問に当て、2年生は一行と場面を組にする。今日は、一行と場面を3行で書いて、声に出して一度読んでみてほしい。使うことで、一行は君のものになっていくのだ。
自己分析は、使いながら深まっていくものだと、あおラボは信じている。あなたの挑戦を、いつも全力で応援している。