「3年3割問題」は学生の皆さんもご存知の方が多いのではないでしょうか。簡単に説明すると、4月に入社した新入社員がその後3年以内に3割が離職する、ということです。厚生労働省のまとめによると、2020年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況は、就職後3年以内の離職率は、高卒が37.0%(前年比1.1pt増)、大卒が32.3%(前年比0.8pt増)となっています。
入社後3年目までの若手社員が退職する理由はさまざまですが、特に多いと考えられているは、「リアリティーショック」と「人間関係」です。
リアリティーショックについては過去にも少し触れましたが、現実と理想のギャップに衝撃を受けることを指した言葉です。企業においては新たに職に就いた人材が、事前に思い描いていた仕事や職場環境のイメージと、現実に現場で経験したこととの違いを消化しきれず、不安や幻滅、喪失感などを強め、時に離職にまでいたる問題をいいます。新入社員だけでなく、ベテランも大きな環境変化に直面すると、リアリティーショックに陥ることがあるといわれています。
新入社員にとって、リアリティーショックはある意味避けて通れないものかもしれません。それをきちんと受け止められるか否かは、周囲の上司や先輩の対応、フォローにかかっているといっても過言ではありません。
自分自身の仕事のやりがいや辛かった経験を通して、新人にこれから与えられる業務の意味やミッションを粘り強く、噛み砕いて伝えていくことが大切です。
また会社としても、配属先での受け入れ態勢に万全を期すことが求められます。名刺はもちろん細かな備品にいたるまできちんと準備して、「組織は君を歓迎している」というメッセージを伝えることで、「ここに自分の居場所がある」という安心感を新入社員が得られるように務めることが採用した側の姿勢だと思います。
前述したとおり、リアリティーショックは必ず起きるものです。問題はその度合いです。この度合いを深くしないための対策は、企業研究を丁寧に行うことが一番です。入社後通日で「こんなはずじゃなかった」とため息を吐くくらいなら可愛い話ですが、悶々とした思いを溜め込んでしまい、遂には体調を崩すような事態になることは、あってはいけないことです。
次に人間関係についてですが、これは最も多い退職理由です。「令和4年雇用動向調査結果の概況」(厚生労働書)によると、2022年の転職入職者数は約497万人でした。これは、常用労働者数の9.7%にあたります。2022年1年間だけで労働者の1割近くの人が転職していることを示しているのです。
近年では、転職辞退が珍しいものではなくなっていますし、個人的に転職をネガティブに捉えてはいませんが、その本質的な理由には注視しています。 転職活動を始める方々を対象に調査した「マイナビ転職動向調査2024年版」を見ると、その理由として給与や職場の人間関係を上げる人が特に多いことがわかります。

最近、若年層の職業人を中心に「職場の飲み会を嫌がる人が多い」といった話題があるなど、職場の人間関係がドライや希薄なイメージを持っている人もおられるかも知れません。でもそれは、コロナ禍前の話でして、現在は少し状況が変わっていると認識しています。 前述のマイナビの2024年度新入社員意識調査によると、「社会人として仕事をしていく上で重要だと思うことは何ですか」という質問に対して、60.9%が「良好な人間関係」と回答しています。この調査結果からは若年層が「職場の人間関係を大切にしたい」という思いが伝わってきます。
一方、同調査で「社会人生活のなかでどのようなことに不安を感じていますか」の質問に対して、56.5%が「上司・先輩・同僚との人間関係」と答えていることにも注目しなければいけません。
「職場の人間関係を大切にしたい」と考えているものの、一方では「職場の人間関係」に不安を抱えている若年層職業人の姿が浮かんできます。
おそらく、頭ではわかっているけど、どうしていいのかわからな・・・という状況でしょう。
学生から職業人(組織人)に移行したときに意識しておくべき点として、良好な人間関係の解釈を変えて見ることです。
学生生活では一口で言えば「仲がいい」ことになるでしょう。では、職業人としてはどうでしょうか? もちろん「仲がいい」ことは大切です。ですがそれ以前に、職場は仕事をする場であることを外してモノゴトを考えることは極力避けるべきことです。つまり、職場で最優先すべきはチームに求められている成果をあげることです。
ですから成果をあげるための良好な人間関係が必要なのであって、個人の情緒的な関係性にフォーカスされたものではないということです。この点は、大学も含めた学校文化圏しか経験のない学生や新入社員には、最初は戸惑うことかもしれません。
少し極端な(厳しい)物言いになりますが、プロの職場において「仲良しは」はときに邪魔や仇になることだってあるのです。
プロの世界における人間関係の根っこには「尊敬と信頼」が必須であると個人的には考えています。また、職場に良好な人間関係を構築するのは上司の仕事ではなく、チーム全体の課題であると認識して、メンバーが協働して努めることが大事であると考えています。
そのためにまずは、チーム内のコミュニケーション不足を起こさないよう努めること、業務遂行そのものでストレスが起きないようにマネジメントすることに取り組むことを勧めています。
相手がいての関係性ですから、学生の内から対策することはないようにも思えますがそうではありません。機会がある度に2つを紹介しています。1つ目は、歴史から学ぶことです。自分以外の人のモノゴトの見方・捉え方、その後の言動などに意識を傾け歴史を覗くと、私のような勉強嫌いな人間でも永く学ぶ習慣を身につけることができたものです。2つ目は、自分の教養として心理学を学ぶことです。なかでも「交流分析」(Transactional Analysis)は、精神分析の口語版ともいわれ、人の心と行動を快適にする心理学です。交流分析は企業内教育研修にも活用されていますので、皆さんの中にも、就職後に学ぶ機会に恵まれる方がいるかも知れません。
3年3割問題や転職ありきの就職についてはさまざまな意見があることを承知しています。地方での就職に限定してお伝えできることは、転職ありきの就職は必ずあなたの人生に大きなマイナスを及ぼすことです。また、地方ではそもそも企業が潤沢ではありませんので、3年3割問題に限らず、退職後の就職活動は非常に厳しい状況にあることを理解しておくことが必要です。
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