就活先は文化圏が異なる

企業の採用要項の中に頻出するものに「主体性」があります。一般的に「主体性がある」とか「主体性に欠ける」と使われています。私はリーダーシップ研修等で「主体的に意思決定をする/しない」という表現をよく使っています。

ビジネス界では当たり前のように「主体性」という言葉が使われています。ですが、ちょっと深掘りしてみたら、ビジネス界と教育界では主体性に対する認識にギャップがあるのですが、残念ながらこのことを知らない学生が少なくないことがわかりましたので、今回は「主体性」についてお伝えします。これを知ることで、就活生が応募企業との認識のギャップで残念な結果を招くことが少なくなることにつながれば幸いです。

採用にあたって重視する資質や能力の選択肢に初めて「主体性」が登場したのは、2011年に経団連が実施したアンケート調査といわれています。その後直近の調査まで、主体性は企業が学生に求める能力として毎回トップに君臨しています。

一方、教育界では、2012年日本の学校教育の方針を県とする中央教育審議会の答申のサブタイトルに「生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」と主体的な学びが強調され、アクティブ・ラーニングが提唱されました。この頃から、「主体性」が産学で重視されるようになったと考えられています。

また、企業が学生に求める能力の変遷を調べてみると、2000年頃に「主体性」を求めていいたのは、主に従業員数1,000人以上の大企業でした。業界で見ると情報・通信・商社・卸・製造業などの限定的だったようです。

それが2020年頃になると大きく変化しています。企業規模に関わらず企業は主体性を求めるようになりました。業界で見てもマスコミを除いたすべての業種で、学生に主体性を求めるようになりました。

ここで押さえておきたいことは、主体性が持つ言葉の意味合いが変わってきていることです。2000年頃は「行動力」という言葉と紐づけられて使われていましたが、2020年頃には「思考力」や「協調性」と共に使われる傾向が見られるようになります。

多くの職業人にとって、主体性とは「自分なりに考える」ことが発露だと考えています。さらに「発信する」「仕事に関して協働する」ことも、主体性という言葉に内包されています。これは、規模・業種業態に関わらず、ほとんど同じ認識と考えていいでしょう。

20年前といえば現在の管理職が若手だった頃です。当時は決められた目標に向かって走れるような行動力が求められていました。しかし今はそれでは通用する時代ではなくなりました。変化の激しい今、上司は部下に対して進むべき道を示すことが難しくなっているのは事実です。

そこで重要になってくるのが多用な視点です。異なる視点や経験を持つメンバーが、それぞれの立場で考え、協働しながら課題に取り組むチーム運営が必要になったのです。つまり、「主体性」に「思考力」や「協調性」まで内包するように変化してきたと思うのです。

現在、企業が人材に求める主体性とは

まずは、仕事に関して「自分なりに考える」という内的活動です。企業は、この「自分なりに考える」ことを重視しています。しかし自分お考えを本人の内に留めておいたままでは、周囲がそれを認知できず、組織に活かすこともできません。なので、何らかの形で「発信する」必要があります。

「発信する」とは、特別なことではなく、自分なりに考えたことを、会議の場で意見として出す、先輩や上司に話す、メールで意見として伝えるなど、日常業務の中でごく普通に行われていることを意味しています。「発信」した後は、周囲のメンバーと「仕事に関して協働する」という行動までつなげることが大切です。つまり、自分なりに考え、発信したことで、組織のタテ・ヨコのメンバーと仕事に関して協働することにつながれば、「主体性」として評価されることにつながるのです。

そこで学生は主体性を同じように捉えているだろうか?と考えますと、難しい現実が見えてきます。自分なりに考え、発信するという点は重なる部分も見えますが、「仕事に関して協働する」ところまでを含めて主体性と認知している学生はほぼいないと言っても過言ではないのです。

この認知が欠けた上でいると、「主体性」の認識ギャップが生じるのです。ある学生が卒業後、就職してすぐに「主体性が大事だ」と思って職場で積極的に意見を述べたところ、「とにかくうちのやり方を覚えろ」と怒られたと、後日、大学に来たその学生は「会社は主体性など求めていなかった」と指導教員に話したそうです。

大学では多様な発言が歓迎され、発言内容自体について叱られることはほとんどありません。仮に、前提となる知識不足があったり、問題解決には役立たない発言であったりしても、学びの途中にある学生の意見、学術的な議論の一意見として尊重されるものです。

これから就活を迎える26年卒以降の皆さんは、小学校から16年間過ごした学校文化と企業文化は異なる文化圏であることをまずは正しく理解することが大切です。

前述したとおり、「主体性」は企業が学生に求める能力として毎回トップになっているだけに、主体性に紐づく内容の認識ギャップは、就活に大きな影響を与えると思います。

大卒まで16年間過ごした学校文化圏は、皆さんにとっては当たり前のことだと思いますが、卒業されて社会に出ると、企業文化圏で仕事をし、生活を営むことになります。それも非常に長い年月をその文化圏で過ごすことになるでしょう。

まずは就活に踏み出す前に、先方の文化圏の本質を知り、自分との認識ギャップを見つけることが大切です。それに役立つのがラーニングカフェ(キャリア形成支援ワークショップ)です。今月は20日に開催します。ぜひ、お越しください。

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