「名詞」の理念を「動詞」の目的に。ポストイットでつくるチームのパーパス共創ワーク
HRパーソンの皆さん、こんにちは。毎週、水曜日と土曜日は「人事のラボ」(/hr-community)版を投稿しています。
先週の水曜日には、目標(数字)と目的(意味)のズレがチームの活力を奪うというお話をしました。しかし、立派な経営理念やビジョンが壁に貼ってあるだけでは、現場の熱量は上がりません。大切なのは、その理念を「自分たちの今の仕事」とどう繋げ、一分一秒の行動の判断基準にまで落とし込めるかです。ドラッカーは「戦略とは、今日何をするかを決めることである」と説きましたが、そのためには「そもそも何のために存在しているのか」という目的が、全員の腹に落ちている必要があります。第4回となる本日は、抽象的な「目的」をチーム全員で手触り感のある「言葉」へと変えていく、ポストイットを使った具体的な実践ワークの全手順を公開します。28卒・29卒の若手からベテランまで、世代を超えて「このチームで働く意味」を共有する濃密な時間を作っていきましょう。
1章:なぜ「共創」プロセスが、理念浸透の唯一の近道なのか
「会社が決めた理念が浸透しない」という悩みは、多くの中小企業から寄せられます。しかし、組織開発(OD)の観点から言えば、他人が決めた言葉を「浸透させる」こと自体に無理があります。第1章では、なぜメンバーを巻き込んだ「共創(Co-creation)」のプロセスが必要なのか、ドラッカーの「自律的労働」という視点から解き明かします。
1. 借り物の言葉は「責任感」を生み出さない
社長やコンサルタントが作った綺麗な言葉を唱和しても、メンバーの行動は変わりません。それは自分の人生の物語と結びついていない「借り物の言葉」だからです。ドラッカーは「責任を負わせるためには、自らが目標設定に関わらなければならない」と述べました。目的も同様です。自分たちが言葉を選び、悩みながら紡ぎ出した一文であれば、そこには「自分たちが決めた」という当事者意識が宿ります。この主体性の感覚(Sense of Ownership)こそが、困難に直面した際の粘り強さの源泉となります。
2. 「合意」よりも「納得」のプロセスを重視する
心理学的に見て、人は論理的に正しいこと(合意)よりも、感情的に受け入れられること(納得)に突き動かされます。共創ワークの目的は、単に優れたパーパスを作ることではなく、その作成過程で「お互いの想いを聴き合う」ことにあります。「ああ、そんな想いで仕事をしていたんだ」という他者への共感が、組織の心理的安全性を高め、結果として言葉への納得感を生みます。キャリアコンサルタントとして多くの面談をしてきましたが、組織への帰属意識は、制度の充実よりも「自分の想いが組織の言葉に反映されている」という実感によって育まれます。
3. ドラッカーが求めた「知識労働者の自己管理」への第一歩
現代の仕事の多くは、指示通りに動く「肉体労働者」のモデルではなく、自ら判断する「知識労働者」のモデルです。知識労働者をマネジメントする唯一の方法は、彼らが「自分をマネジメント(自己制御)」できるようにすることです。そのためには、判断の根拠となる「組織の目的」が、彼ら自身の価値観と高い次元で同期している必要があります。共創ワークは、組織の目的を個人の内発的動機へと「インストール」する、極めて生産性の高い儀式と言えます。
4. 地方企業における「顔の見える」ビジョン構築の意義
都会の巨大組織とは異なり、地方の中小企業はメンバー全員の顔が見える規模感です。これは「共創」における最大の強みです。全員が円卓を囲み、それぞれの「原体験」や「地域への想い」を出し合うことで、その地域、その会社にしか存在し得ない独自の目的が浮かび上がってきます。業種が何であれ、「なぜ私たちはここ青森(あるいは地方都市)で、この事業を続けているのか」という地域性と個人の幸福を結びつける物語が、最強の採用ブランドにも繋がります。
5. 心理的安全性が、隠れた「本音」を言葉に変える
本質的な目的を語り合うためには、その場に「何を言っても否定されない」という確信が必要です。第1回で解説した心理的安全性が、ここで試されます。建前だけの理念ではなく、「正直、今の仕事のここが苦しい」「でも、お客様のこういう顔が見たい」という生々しい言葉が出てきて初めて、パーパスは血の通ったものになります。ワークを通じて弱さ(Vulnerability)をさらけ出し、それをチームが受容する体験そのものが、組織の回復力(レジリエンス)を高めていくのです。
2章:【事前準備】ワークショップの成功を左右する「場のデザイン」
ワークショップを「ただの雑談」で終わらせないためには、周到な「場のデザイン」が不可欠です。第2章では、人事担当者やリーダーがワーク実施前に整えておくべき環境、マインドセット、そして「問い」の設定について、心理学的知見を交えて詳述します。
1. 「心理的セーフティ・ゾーン」を物理的に構築する
会議室のレイアウトから変えてみましょう。長机を挟んで対面するのではなく、円形に座る、あるいは立ってホワイトボードを囲む。心理学的には、物理的な「壁(机)」を取り払うことで、コミュニケーションのガードも下がります。また、カラフルなポストイットや太めのマーカーを用意し、「正解を書くテスト」ではなく「アイデアを広げる遊び(プレイ)」のような空間を演出します。クリエイティビティは、適度なリラックスとワクワク感から生まれるからです。
2. ドラッカー流「5つの質問」を現代版にカスタマイズする
ワークの核となる「問い」を事前に設計します。ドラッカーの有名な5つの質問(われわれのミッションは何か? 顧客は誰か? 顧客の価値は何か? 成果は何か? 計画は何か?)を、現場のメンバーが答えやすい言葉に翻訳します。例えば「顧客の価値」を「お客様がわが社に一番『ありがとう』と言ってくれる瞬間はいつか?」と言い換える。問いの質が、出てくる言葉の質を決定します。
3. リーダーの「ファシリテーション」ではなく「伴走」の姿勢
管理職が「正解」を誘導してはいけません。リーダーがすべきは、全員が発言できるように交通整理をしつつ、自分も一人のメンバーとして自分の想いをさらけ出すことです。キャリアコンサルタントの基本技術である「受容・共感・自己一致」を意識し、部下の言葉を評価(ジャッジ)せずに受け止める。リーダーが「教える人」から「共に探求する人」へと役割を変えたとき、チームの集合天才(Collective Genius)が動き出します。
4. 「時間」と「場所」を聖域化することの重要性
日々の業務の合間に行うのではなく、できれば午前中の3時間など、スマホやPCを閉じて集中できる時間を「聖域」として確保してください。「忙しいのにこんなことをやって意味があるのか」というメンバーの不安を払拭するため、リーダーは「この時間が、これからの1年の生産性を決める最も重要な投資である」と断言すべきです。ドラッカーが説いた「時間の管理」とは、価値の低い活動をやめ、未来への投資に時間を割くことに他なりません。
5. 多様なメンバー構成による「視点の多角化」
可能であれば、同じ部署内だけでなく、入社1年目の若手からベテラン、あるいは他部署のメンバーをオブザーバーとして混ぜるのも有効です。心理学における「外部の視点」は、当たり前すぎて気づかなかった組織の強みを再発見させてくれます。28卒のインターン生などの感性は、固定観念に縛られた組織に新しい風を吹き込み、目的をより「普遍的で魅力的なもの」へと洗練させる力を持っています。
3章:【ステップ1】「原体験」の掘り出し――私たちが大切にしたい価値観を特定する
ワークの最初のステップは、過去の記憶から「価値観の種」を見つけ出すことです。第3章では、ナラティブ・アプローチを用いて、個人の情熱と組織の歴史を繋ぎ合わせ、共通の価値基準を抽出する方法を解説します。
1. 自分の仕事が「輝いた瞬間」を回想する
「これまで働いてきた中で、最も充実感を感じた、あるいは誇らしく思ったエピソードは何か?」という問いからスタートします。これを1枚のポストイットに、当時の状況と、その時「何(どんな動詞)」をしていたかを書き出します。成功の大小は関係ありません。自分にとっての「真実の瞬間(Moment of Truth)」を思い出すことで、感情が動き、本質的な言葉が出てきやすくなります。ドラッカーが言う「仕事のやりがい」は、常にこうした具体的な貢献の実感の中にあります。
2. 「なぜ、それを選んだのか?」価値観の深掘り
書き出したエピソードに対し、隣の人と2人1組でインタビューし合います。「なぜその瞬間が嬉しかったのか?」「大切にしていたことは何か?」。問いを繰り返す(ラダリング)ことで、表面的な事象の奥にある「揺るぎない価値観(例:誠実さ、挑戦、スピード、繋がりなど)」が浮かび上がってきます。心理学的なアセスメントと同様、自分一人では気づけない「無意識の動機」を他者に鏡のように映し出してもらうプロセスです。
3. チームの「共通言語」を抽出する
全員のエピソードと価値観を壁に貼り出し、似たようなニュアンスの言葉をグループ化(グルーピング)します。「お客様に寄り添う」「困っている人を放っておけない」「丁寧な仕事」。これらを眺めていると、そのチームに共通して流れている「DNA」が見えてきます。これこそが、組織の土着の価値観です。ドラッカーは「組織の精神は、上から下に流れるのではなく、基盤をなす一人ひとりの信念から作られる」と考えました。この「信念の可視化」が、パーパスの土台となります。
4. 「名詞」を排除し、「動詞」で表現する
価値観を抽出する際、できるだけ「誠実」「信頼」といった抽象的な名詞ではなく、「嘘をつかない」「最後までやり切る」といった動詞で表現するように促してください。名詞は解釈が分かれますが、動詞は具体的で行動を想起させるからです。第2回で学んだ「T・C・L属性」の動詞と組み合わせることで、その価値観を達成するために「誰が・何をすべきか」がより明確になり、実効性のある行動規範へと進化します。
5. 負の体験(アンチ・パターン)からも学びを得る
「二度とこんな思いはしたくない」「あの対応はわが社らしくなかった」という負の記憶も大切にします。何が「自分たちらしくない」のかを明確にすることは、裏を返せば「何が自分たちらしいか」を定義することに直結します。心理学の「逆の心理」を活用し、理想の姿をより鮮明に描くためのコントラストとして活用します。ドラッカーの説く「誠実さ」とは、何をしないかを決めることでもあるのです。
4章:【ステップ2】「顧客」と「成果」の接続――外部への貢献を言語化する
自分たちの価値観(内的動機)を確認した次は、それを「外の世界」と繋げる作業です。ドラッカーは「組織の目的は、組織そのものの中にはない。常に外部にある」と断言しました。第4章では、自分たちの強みが誰を幸せにし、どのような変化を起こすのかを具体化し、目的の「公共性」と「実益」を担保するプロセスを解説します。
1. 「真の顧客」は誰か?を徹底的に具体化する
「すべての人」を顧客に設定することは、誰にも選ばれないことと同義です。私たちのサービスや商品が、最も必要とされ、最も大きな変化をもたらす「特定の誰か」をイメージします。地方の中小企業であれば、それは「地元の商店主」かもしれませんし、「家事と育児に追われる親御さん」かもしれません。心理学のペルソナ手法を用い、その人の悩みや痛みをありありと想像します。ドラッカーが説く「顧客の定義」こそが、戦略の出発点であり、パーパスの核心部です。
2. 顧客が買っているのは「満足」という名の変化である
ドラッカーは「顧客が買っているのは、製品ではなく、その製品がもたらす満足である」と述べました。私たちの提供する機能が、顧客の人生をどう変えるのか。その「変化(アウトカム)」をポストイットに書き出します。「不安が安心に変わる」「手間が楽しみに変わる」。この「変化の総量」こそが、私たちの仕事の成果です。メンバー全員でこの変化を共有することで、「自分たちの仕事は、単なる作業ではなく価値の創造である」という自負が芽生えます。
3. 「私たちがいないと、何が困るか?」を問う
少し厳しい問いですが、「もし明日、わが社(わがチーム)が消えてなくなったら、誰がどのように困るだろうか?」を議論します。この問いへの答えこそが、組織の真の存在意義(レーゾンデートル)を浮き彫りにします。社会から、あるいは地域から切実に必要とされている部分を見つけ出す。キャリアコンサルタントとしての介入においても、この「社会的必要性」の自覚は、個人のアイデンティティを強固にし、困難に立ち向かうレジリエンスを形成します。
4. 競合他社との「違い」を目的の純度に変える
他社も同じような商品を扱っているかもしれません。しかし、なぜ顧客は「私たち」を選んでくれるのか。そこに私たちの独自の「動詞(やり方)」や「想い」があるはずです。他社との違いを明確にすることは、排他的になることではなく、自分たちの個性を磨き上げ、目的を尖らせる作業です。心理学における「自己概念」の形成と同じく、他者との対比を通じて、自分たちの輪郭(目的)をより鮮明に描き出していきます。
5. 「成果」を多面的に定義し、共通の喜びとする
成果を売上高(名詞)だけで語るのをやめ、目的達成の度合いを示す指標を全員で作ります。「顧客からの感謝のメール数」や「リピート率」など、自分たちの目的が達成されていると感じられる独自の「やりがい指標」を設定します。ドラッカーは「成果の定義なしにマネジメントはありえない」と言いました。全員が納得できる「成果の物差し」を持つことで、チームの一体感は数値目標以上の強固なものになります。
5章:【ステップ3】「パーパス」を編む――明日からの行動を変える「一文」への凝縮
最後のステップは、これまでの議論を「一つの言葉」に集約し、日常の行動指針へと昇華させる作業です。第5章では、美辞麗句ではない、現場で機能するパーパスの文章化と、それを組織の血肉に変える「定着化」の手法を詳述します。
1. 「誰が、誰に、何をして、どう変えるか」のフレームワーク
散らばったポストイットのキーワードを、以下の型に当てはめて文章化します。「私たちは(自分たちの強み・姿勢)を持って、(顧客)の(悩み)を(解決・行動)し、(理想の未来)を創ります」。このフレームワークを使うことで、抽象的な言葉が具体的な「動き(動詞)」へと変換されます。ドラッカーのマネジメント哲学を現代の行動科学で補完し、実行可能な「意志」へと凝縮するプロセスです。
2. 洗練されたコピーより「自分たちの不器用な言葉」を
広告代理店が作るようなカッコいいコピーを目指す必要はありません。むしろ、議論の中で何度も出てきた言葉、少し不器用でも自分たちの熱量が乗っている言葉を選びます。心理学的に「精緻化見込みモデル」と呼ばれますが、自分たちで深く考え、選び抜いた言葉こそが、長期的な態度変容を促します。その言葉を聴いたとき、メンバーが「ああ、あの時の議論で出たあの想いだ」と思い出せるかどうかが、定着の成否を分けます。
3. 完成したパーパスを「判断基準」として使い倒す
パーパスが完成したら、まずリーダーがそれを「武器」として使い始めます。トラブルが起きた時、新しいプロジェクトの可否を決める時、「それはわが社のパーパスに沿っているか?」と問いかけます。ドラッカーが求めた「自己制御」の基準としてパーパスを機能させるのです。上司の主観ではなく、パーパスという「共通の憲法」に基づいて意思決定が行われることで、組織の公平性と透明性は飛躍的に高まります。
4. 若手の「感性」をパーパスの守護者にする
完成したパーパスを真っ先に共有すべきは、これから入ってくる若手や内定者です。彼らの澄んだ感性で、「今の私たちの行動は、本当にこのパーパスに合っていますか?」と問い直してもらう。キャリア教育の視点からも、若手が組織の目的に関心を持ち、それを守る役割を担うことは、早期離職を防ぎ、高いエンゲージメントを育む最良の教育となります。若手の言葉を真摯に受け止める大人の姿勢が、パーパスに命を吹き込みます。
5. 半年に一度の「パーパス・リフレクション」を習慣化する
パーパスは一度作れば終わりではありません。環境の変化に合わせて、常に問い直すべきものです。ドラッカーは「継続的な学習と改善」を組織の基盤としました。半年に一度、再びポストイットを持って集まり、「今の私たちはこのパーパスを体現できているか?」を語り合う。この「メンテナンス」を継続することで、パーパスは形骸化せず、常にチームを動かす新鮮なエネルギー源であり続けます。

6章:まとめ
5月第2週、土曜日の記事はいかがでしたでしょうか。抽象的な「理念」を、自分たちの「言葉」と「動詞」に落とし込む共創ワークの熱量が、少しでも伝わっていれば幸いです。
ドラッカーは「組織の目的は、凡人をして非凡なことをなさしめることにある」と言いました。この「非凡なこと」を支えるのは、特別な才能ではなく、「私たちは何のためにここにいるのか」という揺るぎない確信です。ポストイットに書き出された不器用な想いの数々が、一つの方向を向いたとき、チームはどんな困難な壁も突破する力を持ちます。
キャリアコンサルタントとして多くの現場を歩いてきましたが、パーパスが腹に落ちている社員の目は、驚くほど輝いています。それは、自分の仕事が誰かの人生を変えているという「意味」を掴んでいるからです。その輝きこそが、顧客を呼び込み、次世代の才能を惹きつける最強の磁力になります。
週明け、まずは自分自身の「大切にしたい価値観」を、隣の席のメンバーに話してみることから始めてください。小さな「想いの共有」が、やがて組織を動かす大きなうねりとなります。私は、あなたのチームが「世界で唯一の、誇り高いパーパス」を紡ぎ出すことを、心から応援しています。
【HRパーソン向け】本質的な組織変革を学ぶあおもりHRラボのHRコミュニティ
組織と個人の成長を加速させる、戦略人事のための相互学習の場
私たち人事・HRパーソンは、常に変化する時代の中で、組織と個人の未来をデザインする重責を担っています。しかし、その答えは書籍やセミナーで得られる一過性のノハウだけでは見つかりません。必要なのは、本質を見抜く視点と、多様な実践知を交換し合う場です。
あおもりHRラボのHRコミュニティは、「採用」「リーダーシップ」「人材育成」「組織文化」といった人事の核となるテーマを、ピーター・ドラッカーの普遍的な教えや最新の心理学に基づき、深く掘り下げて学びます。