毎年春に公表される「マイナビ・日経就職企業人気ランキング」を改めてみて見ると、当該調査結果は時代を映す鏡となっていることに気づきます。
34年前である1990年はバブル期でした。経済も活況していて国中が好景気に沸いていた時代です。学生にとっては売り手市場で、企業側も人材獲得に必死でした。面接後に企業から「お車代」が渡されるケースもありました。
バブル期は1986年12月から1991年2月頃までと言われています。池井戸潤の半沢直樹で描かれた花のバブル組が社会人となった頃です。
1990年の調査(1991年卒)を見ると、文系では1位全日本空輸、2位三井物産、3位伊藤忠商事、4位三菱銀行、5位日本航空、6位住友銀行でした。
一方、理系では1位日本電気、2位ソニー、3位富士通、4位日本電信電話、5位日本アイ・ビー・エム、6位松下電器産業でした。
この時代に挙がった企業名を見ると、松下電器産業はパナソニックへ、日本電信電話はNTTへと変わり、合併前の銀行名があり、昭和生まれには懐かしさを感じます。
1991年2月にバブルが崩壊後は、就職に苦労する学生が一気に増えました。1993年頃から2004年頃までは就職氷河期といわれた時代でした。現在小中学生の親世代は、この頃に就活をされた方が多いかと思います。
就職氷河期だった2000年は、多くの企業が新卒採用を控え、求人倍率が1倍を下回り、就職で苦労した学生が大勢いた時代でした。学生は大手企業に入りたいと思っても、業界や規模にこだわっている余裕はなく、「とにかく入れるのであればどこでも行く」といった心境で活動していた学生が少なくなかったのです。
2000年の調査(2001年卒)をみると、文系では1位JTB、2位NTTドコモ、3位ソニー、4位近畿日本ツーリスト、5位資生堂、6位日本航空でした。
一方、理系では1位ソニー、2位資生堂、3位本田技研工業、4位NTTドコモ、5位トヨタ自動車、6位旭化成工業でした。
バブル期と異なり挙がった企業名を見るとバラつき感があります。理系では建設や食品などの企業もランクインしています。また、この頃の特徴として女子学生が増えてきました。そんな背景もあって資生堂が文理ともにランクインしたと思われます。インターネットや携帯電話が急速に普及していった背景がありNTTドコモ、NTTデータがランクインしたと思います。
2008年にはリーマン・ショックが起こり、バブル崩壊とは異なった背景で経済が厳しい時代となりました。
2010年の調査(2011年卒)を見ると、文系では1位JTBグループ、2位資生堂、3位全日本空輸、4位オリエンタルランド、5位三菱東京UFJ銀行、6位明治製菓でした。
一方、理系では1位味の素、2位パナソニック、3位カゴメ、4位資生堂、5位ソニー、6位明治製菓でした。
食品業界は一般消費者を対象にしているので学生にとっても馴染みがあります。衣食住の一つということもあり、不況でもニーズが絶えることはありません。身近にあること、不況にも強いということが背景にあって食品業界が躍進したと思われます。また、食品業界は女性に人気があり、理系女子が増えてきたこともあって、食品人気となったと思います。
この後、新型コロナウイルス感染症の流行で大きな影響がもたらされることになりました。この頃のことは、これをお読みのあなたの記憶も鮮明だと思います。ただ、学年が少し上の人たちの就職に関係する話題にはあまり関心を持つこともなく、詳しいことはよく知らないという人も少なくないでしょう。
2020年の調査は、2019年秋から2020年春に行われたので、コロナ禍前のランキングと捉えています。文系上位にはJTBや航空会社が挙がっていました。しかし、2021年の調査(2022年卒)では完全にランキングが様変わりしました。コロナ禍の影響を受けた航空系や旅行系企業は上位から姿を消しました。
2020年の調査(2021年卒)を見ると、文系では1位JTBグループ、2位全日本空輸、3位東京海上日動火災保険、4位日本航空、5位オリエンタルランド、6位伊藤忠商事でした。
一方、理系では、1位ソニー、2位味の素、3位富士通、4位サントリーグループ、5位トヨタ自動車、6位NTTデータでした。
翌年の2021年の調査(2022年卒)では、文系1位東京海上日動火災保険、2位第一生命保険、3位味の素、4位伊藤忠商事、5位ニトリ、6位ソニーミュージックグループでした。
一方で理系は、1位味の素、2位ソニーグループ、3位サントリーグループ、4位明治グループ、5位トヨタ自動車、6位NTTデータでした。
この歳の特徴として、文系では、東京海上日動火災保険、第一生命保険、損害保険ジャパンと、保険業界が躍進しました。背景の一つにはコロナ禍という不測の事態やリスクを経験したことで、リスクから個人や企業を守るという保険証罪に学生の目が向いたことがあります。業界もその点を学生に強くPRしたことが功を得たと思われます。
理系では、2020年調査と大きな変動は見られません。引き続き食品業界が人気で、NTTデータや富士通などIT系企業の人気も高い状況でした。
10年刻みで就職人気企業ランキングを見返してみると、その時代の背景を色濃く反映していたことが明らかです。どの時代でも学生は敏感に時代の動きや流れをちゃんとつかんでいるように思います。
80年、90年は文系では好景気もあって、銀行・証券といった金融が、理系では自動車・輸送用機器や電子・電気機械といったモノづくり日本を象徴する企業が人気を集めていました。ザックリ、特定の業界に集中していたともいえます。その後コロナ禍、VUCAといって未来予測が困難な時代といわれるようになり、近年では「どの業界か」ではなく、変化に対応できる企業体力の度合いや企業の成長性が学生のモノサシに変わってきたように思います。
まだ一部ではありますが、学生のなかには就社ではなく就職を軸に捉えて就活を進めるようになっています。その結果として「配属ガチャ」とは別の意味で配属先にこだわる、職種を絞った学生が増えているのが近年の就活生の姿ではないかと捉えています。
これをお読みの26年・27年卒の皆さん、あなたはどんなモノサシを持ってしゅうかつにのぞまれるでしょうか。そのヒントともなる学びの機会となるのが、キャリア形成支援ワークショップ(aoLbo流Learning Cafe)です。7月は就活にまつわる「選ぶ・決める」を掘っていきます。ご参加お待ちしています。
最後に2025年卒大学生就職企業人気ランキングを参考までにご案内します。