聞くと聴く

今年入社予定の新入社員(n=6,509名)に調査した「23年度新入社員意識調査」結果がマイナビから発表されました。(調査期間=3月17日~4月19日)

入社時点で自身がすぐに発揮できる力について尋ねたところ、「相手の意見を丁寧に聞く力(傾聴力)」、「物事に進んで取り組む力(主体性・実行力)」に回答が集まりました。一方で、今後自身に養わなければいけないと感じる力として、「自分の意見をわかりやすく伝える力(発信力)」、「他人に働きかけ巻き込む力(働きかけ力)」に回答が上位になりました。

今発揮できる力については、「自分はそう思っている」という主観的な評価であることを考慮して結果を読み解くことが必要ではないかと思われます。最多回答であった「相手の意見を丁寧に聴く力」については、少し眉唾感があります。それは、「傾聴」の定義が個人により結構幅のあるものであることや、「聴くことはちゃんとできる」といった思い込みがあるのかも知れないからです。

私が考える「相手の意見を丁寧に聴く力」という聴く姿勢は、without judgement(判断しない)で聴くことです。聞くということには、①聞いていない、②聞いているようで、聞いていない、③ちゃんと耳を傾けるが判断しながら聞く、④耳を傾け判断をせず聞く、⑤その他、といった姿勢というか型のようなものがあると考えています。

聞くときには丁寧に聞くことを心がけている、と多くの人は考えておられますが、実際はそうでもないのです。聞くときに、「そうそう、私もそう思う」あるいは「そうかなぁ、私はそう思わないなぁ」などと聞き手である自分お意見や考えというものがどうしても出てくるものです。こうした姿勢をwith judgement(判断しながら)聞くと言います。

一方で、without judgement(判断しない)で聴くとは、「そういう考えなんだね、そう思う背景を知りたいなぁ」という姿勢なのです。

近年ビジネス界では心理的安全性を取り入れ組織に醸成する動きが盛んになっています。心理的安全性とはチームのメンバーが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる組織文化です。「職場に心理的安全性があれば皆、恥ずかしい思いをするんじゃないか、仕返しされるんじゃないかといった不安なしに、懸念や間違いを話すことができる」と心理的安全性の生みの親と呼ばれているエイミー・エドモンドソンは語っています。

就活生の間にもコミュニケーション能力が注目されていますが、これもそのほとんどが話し方や伝え方である発信するスキルに焦点を当てたものになっている傾向を感じます。他者との関係性を考えるときに大切なことは、どうやって発信するかよりも、どのように受容するかではないかと思うのです。

また、心理学の視点で傾聴を捉えると、その行為そのものが相手にストローク(相手の存在を認める働きかけ)を与えることになるのです。つまり、心理的安全性を促進する行動と捉えることができます。

傾聴をwithout judgementと捉え他者の話を聴き、訊くことを実践すると次第に自己受容と他者受容が正比例することが理解できるようになります。

聴く力を高めることは自分の成長に効く努力なのです。

いま一度、自身の考えを整理してみることも大切なことです。これも自分に向き合うことです。何かテーマを持って自分の考えや知識やスキル、これまでの経験を整理してみることで新たな自分に触れる機会をつくることもあります。ぜひ、思考を巡らしてみてください。

  1. あなたにとって聴くことは、どんな意味をもつのでしょうか?
  2. あなたが最も聴こうという気持ちになるのは、どんなときでしょうか?
  3. 人があなたの話を聴いてくれるときに、どう感じますか?
  4. 人があなたの話を聴いてくれないときに、どう感じますか?

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