いい話を聞いたじゃダメ

コンサルタントファームで仕事をしていた当時は、新幹線で移動するのが日課のようなものでした。その際には、移動時間を有効活用するためにグリーン席を利用してしていました。たまにですが「仕事移動で新幹線に乗る際はグリーン席が最適と思う」と言った旨の話をしていました。

この話をすると一定の割合で、グリーン席=贅沢、無駄遣い、自慢か、といたネガティブな反応が返ってきたものです。そういう場面では、相手の考えや捉え方を尊重しますので、私は否定をしません。ただし、そのご意見に実体験が伴っているかどうかについては、極力確認するようにしていました。ちょっと腹黒く思われるかも知れませんが、クライアント先では教育的指導の一環としてそうしていました。その意図は、自分意見を伝える際には、できる限りエビデンスを添えることができるようにすることを習慣づけしたかったからです。

それともうひとつ、ネガティブな反応の根っ子に思い込みがドッシリ胡坐をかいていることが少なくないように思っていいて、できればそこに気づいて欲しいと考えていたからです。

どうしてグリーン席を贅沢と考えるかと尋ねると、さまざまな回答が返ってきました。たとえば、「同じ列車なら目的地への到着時間は同じ。なのに、高額料金を支払って乗るのはブルジョア志向だ」「金額としては数千円の差かもしれないが、その差額がちりも積もれば山となるのでは」「エグゼイティブでも経営者でもないお前がグリーンに乗るなんてとんでもない」と実際に面と向かって言われたこともありました。

そうしたネガティブ反応を聞いてから、私は再度質問をよくしていました。「あなたは新幹線のグリーン席を利用したことがありますか?」と。

これは私の経験則からですが、ネガティブ反応をされた97%の人は、グリーン席の利用経験がない人でした。なかには「そんな無駄遣いを私はしない!」と声高におしゃった方もおられました。

今回は新幹線の移動を例にお伝えしていますが、他にも似たようなことは結構あります。知識として「知っている」ことと、自身の血肉となって「やっている」ことでは、大きな違いがあります。さらに「知っている」つもりになっている知識も私たちは気づかないうちに結構溜め込んでいることがあるものです。

「仕事の移動ではグリーン車が最適」の言葉にどんな意味があるのかは、仕事の移動でグリーン席に座った人にしかわからないのかも知れません。

また「目標達成することは重要だ」と言われたとき、それが本当に何を意味するのかは、目標を達成した人にしかわからないのです。

「実体験の伴わない諭旨は戯言のように響く」のだと、こういった経験から私は学びました。体験がないことについては想像と思い込みから引き出されるものであり、真理には遠いものだと思うのです。

本当に理解したいならば、躊躇をしないで身を投じることが必要なのです。それほどに、実体験と言うのは尊く価値のあることなのだと考えています。

ちなみに私がグリーン席を利用するようにした背景は、移動時間を使って、①睡眠時間の補給、②次の訪問先の資料確認、③上司への報告書など社内報連相の処理、を行うためには、どうしても静かな環境が必要だったからです。特に睡眠については、2~3連泊で実施する研修を担当していましたが、研修中はどうしても睡眠時間が短くなるため身体を休めることは必須事項でした。

26年卒のみなさんは、今一度、自身の体験をしっかり棚卸しをすることが大切です。自己分析を深化させること以上に、自己認識が高まります。そして、これからの学生生活にあっては、体験することに対して考え方や捉え方に変化が現れてくるでしょう。「いい話を聴いた」だけでは人は変わらないことは既に理解しているのではないでしょうか。

関連記事一覧

TOP
TOP