Z世代の価値観の変化に関する調査をピックアップすると、就活におけるコスパ、タイパの重視が目立ちます。メディアでも取り上げられているので、他の世代にも浸透していることではないでしょうか。ある調査では、就活でもタイパを意識している学生が約7割になっていました。就活の進め方や企業選択に影響を与えていると推察されます。
タイパを重視することで影響しそうな価値観の一つに、若いときの苦労を避ける/したくない人が増えてきていることが考えられます。日本生産性本部が2019年度まで実施した新入社員「働くことの意識」調査では、「若いうちは自ら進んで苦労することはないと思いますか」と聞いています。2011年度から「このんで苦労することはない」という回答が増え続け37.3%となり過去最高でした。一方で、「進んで苦労すべきだ」は大きく減少して、43.2%となり、最大54.3%あった両者の差が過去最少の5.9ptになっています。
以前は大手採用サイトで、興味のある企業にプレエントリーする際に、1人で100社くらい登録するのが就活生の普通の行動でした。実際に100社受けるのは大変ですが、情報を取るだけが目的の企業も多かったのは事実です。それで興味が持てない場合はそこで接点を切ることになります。
近年のプレエントリー数は30社程度が平均になっています。以前と比べると3分の1程度に減っています。そのなかから実際に選考を受けるのは10数社といったところで、これも依然と比べると半分から3分の1くらい減少しています。
ここで、注目したいのは単に企業と接点を持つ数ではなく、自ら採る情報量が大幅に少なくなっているということです。
求人倍率が1.75倍もあるので、最終的にはどこかに入れるはずだと、少し高を括ってはいないだろうかと心配もするのです。
確かに、新卒採用市場では売り手士業となっているのは事実ですが、そこには落とし穴もあるのです。多くの学生が第一志望にされる従業員5,000人以上の大手企業の求人倍率は0.3倍前後で変わっていません。大手企業に限っては、買い手市場がずっと続いているのです。人気がある金融業界は求人倍率が0.2倍台ですから、4人に1人しか内定を得ることはできない計算になります。
全体の倍率を見るだけだと、どこかには入れるだろう的な思いにもなってしまいますが、仮に大企業や人気業界が志望先なのであれば、そこにフォーカスした情報をしっかり取りに動き、活動も戦略的に進める努力が絶対必要なのですが、残念ながらこういう話が当事者である学生にしっかり届いていないように思います。
大企業だけでなく、人気がある中小企業や地方で認知度の高い中小企業も、大体大手企業と同じようなスケジュールで採用活動を実施します。ですから、大手企業に受からなかったから中小企業を受けようと考えても、まったく知らない企業を選択肢として活動を進めることになってしまうことも珍しいことではないのです。
「無知は人生に壁をつくる」という言葉があります。まさに、まったく知らない企業ですから、同活動を進めたらよいのか、途方に暮れることだって考えられるのです。
タイパ、コスパそのものを否定するつもりはありません。むしろ、実社会では大切な価値観の一つだと考えています。ですが、自身の将来に影響を及ぼす就活やその準備で重視されるには、リスクがあることを理解しておきましょう。