歴史に触れると学べる

「自分が何者か、どこへ向かって歩むのか」といった自己分析に取り組む際、そのヒントとなるものは自分が生まれ育った国の歴史なのかも知れないと思うのです。

30年を超えて愛読している雑誌を通して知った、知の巨人、稀代の碩学と呼ばれた渡部昇一先生は日本史について次のように述べておられます。

歴史とは、単なる事実の積み重ねではなく、歴史的事実という水滴を、日本という場所、現代という時代から、日本人の目を通して眺めたときに見えてくる『虹』のようなもの。

それこそ日本人にしか見えない虹、国史(=国民の歴史)である。

自分の目に虹として映るような国をもてるということが何よりも幸いである

渡部昇一

一読して思ったのは先生らしい言葉だなぁ、です。日本と日本人の行く末を案じておられた先生が、次世代へ思いを託して書かれた「少年日本史」のあとがきに次のように書かれています。

歴史の書き方にはいろいろあるということは本文で述べていますのでここでは繰り返しませんが、やはり虹として見るという見方が一番重要だと思います。

そのような虹を見るために、私は本書を書くにあたって日本史の参考書を積み上げて詳しく調べて書くというやり方をわざと避けました。

そして、日本史の中で私が重要だと考えている出来事を―言い方を変えれば、私が日本の歴史に見た虹を―参考文献に頼ることなく一気に語りました。

しかも、若い人が読者になるということなので、極力わかりやすく語ったつもりです。

ですから、この本を読んでいただければ、という人間が日本史をどのように捉えているか、どのようにイメージしているか、日本と他の国にはどのような違いがあると考えているのかがよくわかっていただけると思います。

どこの国でもそれぞれに、国民は自分の国を誇りに思っていることでしょう。

同時に、どこの国でもあらを探そうと思えばいっぱい出てくるものだと思います。

しかし、そういうあら探しは専門家や特別興味がある人がやればいいことです。

一般の人にとっては、自分の目に虹として映るような国を持てるということが何よりも幸いなことなのです。

「こういう国に生まれたんだなぁ」と喜べるということが一番大事です。

そういう見方をすれば、どこの国の人でも本質的に愛国者になれると思うのですが、中でも日本は特別な国と言っていいのではないかというのが、生まれてこの方、一貫して私が抱いている感想です。

なぜそう言えるのかというと、なんと言っても日本は神話の時代からの神様の系図がすべて明らかになっており、そして神様の系図の終わりと歴史時代の支配者の始まりが地続きになっていて途絶えていない国だからです。

こういう国は世界中探しても日本しかありません。

※※※

先に述べたように、この本は日本史をいちいち調べ直したりしないで私がこれまで学び理解してきたことを一気呵成に述べたものですが、プロの歴史学者が見逃している重要な見方が方々に含まれているはずだと自信を持っていえます。

難しいところはどこもないはずですので、皆さんもぜひ気軽な気持ちで読んでみてください。

そして「日本はこういう国だったのか」という、皆さんの日本像を描く手助けにしていただければありがたいと思います。

本書の『少年日本史』というタイトルですが、昔、私も尊敬する平泉澄先生という立派な歴史家が同じ題名の本を書かれています。

平泉先生はプロの学者の視点から『少年日本史』を書かれましたが、その歴史観は私と同じようなものだったと聞いております。

一方、私は自分が歴史学の素人であるという自覚を失ったことはありません。

そういう立場で日本という国を見たときに、どのような輝ける虹が見えるだろうかということを常に考えてきました。

そして、これこそ日本人が見るべき虹だと思ったことをこの本の中で語りました。

虹を見るということについては、プロであるとか素人であるとかは関係ないと思っています。

私もすでに八十六歳です。

体調はいつも必ずしもいいとは限りません。

その点で本書は、皆さんが生まれるよりも少し前に生まれて、皆さんの知らない戦争も含めて日本の歩みを見てきた渡部昇一という人間が、これからの日本を支える若い人たちに向けて書いた一種の遺言とみなしていただいても結構だと思います。

本書を通じて、私たちの世代が見てきた日本の輝かしい虹を若い世代の人たちが受け継いでくれることを願ってやみません。

少年日本史あとがき

自分の目で虹を見出すことができる職業人がこの国に増えることを願ってやみません。

aoLabで開催している「社会のトビラ塾」では推薦図書として就活前に一読を勧めています。前述したように「自分が何者か、どこへ向かって歩むのか」と自己分析に取り組むヒントとなるものは、自分が生まれ育った国への自身が持つ歴史認識と大きく深く関わりがると思うのです。

日本には世界に誇れる歴史があります。そしてこの国で生きる一人ひとりにも他者に誇れる歩みがあるのです。人生経験の量で優劣つけがたい、誇りを誰もが持っているのです。そのエピソードをちゃんとピックアップし、言語化するためにも良書に触れ学ぶことは大切なことです。

ビジネス世界においてもグローバル化が進んだいま、自分が生まれ育った国の歴史を教養として身につけておくことは必須科目とも捉えることができます。さまざまな背景を持った国の人々とフラットに交流ができる時代だからこそ、自国の歴史や文化に対する考えは整えておくことが大切だと思います。

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