就職活動の当事者である意識を自覚したとき、不安を感じて悩みを抱える学生は少なくありません。それは当然なことだと思うのです。「自分に何ができるのか、自分は何がやりたいのか、分からない」、「世の中にどんな仕事や会社があるのか、分からない」、といった、分からない自分に直面するのです。
学校ではキャリア教育も行われてはいますが、何となく総論的な話として受け止めていたので、いざ当事者の自覚を持つと分からないことだらけとなってしまうようです。ある学生の言葉を借りると「社会人になる時期が近づいてきたら、自分の進むべき道は自然に見えるようになると思っていたのに、全くそうはならなかった!」は事実であり正直な気持ちなのだと思います。
そこで、就活には「自己分析」が必要だと知るですが、ここで思い違いをする学生がまたもや少なくないように思います。それは、自己分析を適性や特性を筆記テストやWebサービスなどを使って分析した結果を知ることだと思い込んでしまうことです。一つの参考情報としてはそれなりの価値はありますが、分析結果を知ることが自己分析ではないのです。自己分析の本質は「真摯に自分と対峙すること」なのです。
やりたいことがわからないのは、どのような職業選択があるのか、その一つひとつをよく知らないから、自分にとってやりたいことが分からないということなのでしょうか? 確かに自分にとってどのようなオプションがるのか、ある程度は知らない限り最終決断はできないものです。しかし、多くの学生が抱える悩みの本質はそれではないと考えています。
たとえば、あなたが世の中にある全ての業種を知り、興味を持ったすべての会社に訪問して話が聞くことができたら、悩みはなくなるでしょうか? そうではないと思うのです。オプションが多すぎることは、むしろ人間にとってストレスを生むことになります。これは脳の構造の問題です。判断に負荷が増すことになるのでストレスが強くなることになるのです。
問題の本質は、職業選択のオプションがどれだけあるかを知らないことではなく、自分自身のことをよく知らないことに気づくことが解決の扉が開く。つまり、自己認識ができていないことです。自分自身を明確に理解する力であるセルフ・アウェアネスが高いことで、キャリアが成功し、成果やパフォーマンス、幸福度が上がることが明らかになっています。
就活生生としての自覚を持った学生が抱える問題の本質は外側にあるのではなく、自身の内側にあるのだと思うのです。つまり、やりたいことが分からないのは、自分の中に軸がないからです。そして軸がないのは就活当事者自覚のタイミングまで、自分自身を知るための努力を十分に行ってこなかったことが起因しているのです。
セルフ・アウェアネスに取り組むときのポイントとして、insight著者ターシャ・ユーリックの研究・実践をもとに書かれたinsightのなかで、「サグラダ・ファミリアの建築くらいの時間軸で捉えてみる」ことが大切であると書かれています。
また、大学のキャリアセンターなどの就職ガイダンスでも、まず「何がしたいのか」を定めることを求められるケースが多いようです。そうなって初めて悩むことになる学生もいると話を伺ったこともありました。
自分の中に基準となる軸がなければ、やりたいことが生まれるはずも、選べるはずもないのです。昼食時に学食にいって、Aランチ、Bランチ、Cランチのなかでどれを選ぶか、ならサッと選ぶことができても、自分の人生に少なからず影響を与える職選びはそうはいきません。人間が重大な選択を迫られるとき、軸がないこと自体が悩みや苦しみの原因になるのです。
このように考えると自己分析には、それなりの時間をかけてじっくり行うことが必要になることが理解できるかと思います。個人的な見解ではありますが、大学2年生の冬を目安に取り組むのがベスト出はないかと考えています。
就活の当事者としての自覚を持った学生が本質的に悩むべきことは、「どの会社にしようか・・・」という具体的な就職先ではないのです。真っ先に悩んで、最後まで考え抜くべきは、自分の軸は何かです。これが、就活に関する自己分析が重要だといわれる所以なのです。