部下のやる気は「引き出す」もの――動機づけの本質

「やる気を出せ」と言うほど、部下は動かなくなる

こんにちは、あなたとあなたの組織の未来を共に創造し、組織の活性化を支援している【あおラボ】です。

前回は、仕事を任せる「線引き」の技術を見てきた。どこまで任せ、どこで関わるか。その設計が、部下の自走を助けるという話だった。

だが、線を引いて任せても、動き出さない部下がいる。「もっと主体的に」「やる気を持って」と声をかけても、表情は変わらない。むしろ、言えば言うほど、遠い目になっていく。

やる気とは、いったいどこから来るのだろうか。上司が「出させる」ものなのか。それとも、まったく別のところに源があるのか。今日は、部下の動機づけの本質を、一緒に掘り下げていく。

Chapter 1 やる気は「注入」できない――動機づけの誤解

「うちの若手は、やる気がなくて」。そんな声をよく聞く。だが、やる気を個人の性格の問題にしてしまうと、打つ手がなくなる。じつは、モチベーションには一定の仕組みがある。まずは、多くの上司が陥っている「動機づけの誤解」をほどくところから始めよう。誤解を手放すだけで、関わり方が変わる。

「やる気を出せ」が、やる気を奪う

元気のない部下に、つい言ってしまう。「もっとやる気を出して」。だが、言われた側の顔は、たいてい曇る。励ましたはずが、なぜか空気が重くなる。心当たりのある人も多いだろう。

やる気は、言葉で注入できるものではない。「やる気を出せ」という言葉は、裏を返せば「お前にはやる気がない」という評価だ。人は、否定されると心を閉じる。動機は、外から押し込むのではなく、内から湧くのを助けるものだ。命令でやる気が出るなら、誰も苦労はしない。

「やる気を出して」と言いたくなったら、代わりに問いに変えてみてほしい。「この仕事の、どこなら面白がれそう?」。評価ではなく、関心を向ける。それだけで、部下の受け取り方はまるで変わってくる。

アメとムチには、賞味期限がある

やる気を引き出すために、報酬や罰を使う。ボーナス、評価、そして叱責。たしかに、その場では効く。だが、しばらくすると効かなくなり、もっと強い刺激が必要になっていく。

外から与える動機づけ――アメとムチ――には、賞味期限がある。報酬は、慣れると当たり前になり、罰は、恐れる相手がいなくなれば消える。しかも、報酬で動く癖がつくと、報酬のない仕事はやらなくなる。外からの動機づけが、内側のやる気をかえって弱めてしまうことも、心理学では知られている。アメとムチは、使うほど、内側の火を消していく。

報酬や叱責に頼りたくなったら、一度立ち止まってほしい。その場は動いても、次はもっと強い刺激が要る。長く続くやる気は、別の場所――部下の内側――にある。今日は、その源を探っていこう。

部下がやる気を出さないのではない、条件が足りない

「あの人はやる気がない」。そう決めつけた瞬間、話は終わってしまう。だが本当に、その人は、どんな場面でもやる気がないのだろうか。趣味や、任された得意分野では、生き生きしていないだろうか。

やる気は、性格ではなく、条件で変わる。同じ人が、ある場面では熱中し、別の場面では冷める。その違いは、本人ではなく、状況にある。自分で決められるか、できる手応えがあるか、認めてくれる人がいるか。この条件がそろうと、人は自然と前を向く。やる気のなさは、多くの場合、条件が足りていないというサインだ。

「やる気がない」と感じる部下がいたら、人ではなく条件を見てほしい。何が足りていないのか。裁量か、手応えか、承認か。人を責めるのをやめて、条件を一つ足してみよう。

モチベーションは、結果ではなく環境の産物

モチベーションが高い人と、低い人がいる。つい、その差を個人の資質だと考えてしまう。だが、その見方は、上司にできることを、自分から狭めてしまう。

モチベーションは、その人の中だけで完結する結果ではない。周囲の環境との、掛け合わせの産物だ。同じ人でも、職場が変われば、やる気は大きく変わる。ということは、上司が整える環境しだいで、部下のやる気は上げられる、ということでもある。これは、上司の責任であると同時に、大きな希望でもある。

部下のやる気を「その人の問題」にせず、「自分が動かせる環境の問題」として捉え直してみてほしい。見方を変えるだけで、打てる手がぐっと増える。責める相手ではなく、整える対象として部下を見よう。

Chapter 2 人が内側から動く、3つの源

やる気が「条件」で決まるなら、その条件とは何だろうか。心理学の研究は、人が内側から動くとき、三つの共通する要素があると教えてくれる。自律、有能感、そしてつながりだ。むずかしい言葉に聞こえるかもしれないが、中身はどれも、現場の実感に近い。一つずつ、ほどいていこう。

自律――「自分で決めた」が人を動かす

上司に細かく指示された仕事は、なぜか気が乗らない。同じ内容でも、自分で選んだ仕事には、身が入る。この差を、あなたも感じたことがあるのではないだろうか。

人を最も強く動かす要素のひとつが、自律だ。「自分で決めた」という感覚が、やる気の源になる。逆に、すべてを指示され、決める余地がないと、人は「やらされている」と感じ、力が抜けていく。すべてを任せる必要はない。仕事の一部でも、部下が自分で決められる余地があるだけで、当事者意識は大きく変わる。

仕事を渡すとき、「やり方は任せる」と一言添えてみてほしい。何を、どこまで自分で決めていいのか。その余白が、部下のやる気に火をつける。小さな裁量が、大きな主体性を生む。

有能感――「できるようになっている」実感

がんばっても、成長している実感がない。できないことばかり指摘される。そんな日々が続くと、人はやる気を失っていく。手応えのない努力は、長くは続かないものだ。

人は、「できるようになっている」という実感で動く。これを有能感という。大きな成功でなくていい。昨日できなかったことが、今日できた。その小さな手応えの積み重ねが、次へ進む力になる。逆に、上司が結果だけを見て、できた部分を認めなければ、部下は自分の成長に気づけないまま、すり減っていく。

部下の「できるようになったこと」を、意識して言葉にしてほしい。「前より、段取りがうまくなったね」。本人がまだ気づいていない成長を、映し出してあげる。その一言が、有能感を育てる。

つながり――「見てくれている人がいる」

誰も自分の仕事を見ていない。がんばっても、気づかれない。そう感じると、人はやる気を保てなくなる。孤独は、モチベーションの静かな大敵だ。

三つ目の要素は、つながりだ。「自分を気にかけ、見てくれている人がいる」という感覚が、人を支える。これは、ほめることとは少し違う。うまくいったときも、つまずいたときも、関心を向けられているという実感のことだ。人は、関係の中でこそ、安心して力を発揮できる。

忙しくても、部下一人ひとりに、短くていいから声をかけてほしい。「あの件、どう?」の一言でいい。見ているというサインが、つながりを保ち、やる気の土台になる。放っておかれていない、という安心が力になる。声をかけられた部下は、「気にかけてもらえている」と感じ、それだけで踏ん張りがきく。関心は、最も安あがりで、最も効く支援だ。

3つは、掛け算で効く

自律、有能感、つながり。どれか一つだけを満たせばいい、と思うかもしれない。だが、それでは足りない。三つはバラバラに効くのではないからだ。

この三つは、足し算ではなく、掛け算で効く。自律があっても、手応えがなければ空回りする。有能感があっても、孤独なら続かない。三つがそろって初めて、内側からのやる気が、安定して湧いてくる。どれか一つが欠けていないか、という視点で部下を見ると、いま足すべきものが見えてくる。

元気のない部下を思い浮かべ、三つのうち何が欠けているかを考えてみてほしい。裁量か、手応えか、つながりか。欠けた一つを補うことが、多くの場合、いちばん効く一手になる。だからこそ、上司は全部をいっぺんに満たそうと気負う必要はない。いちばん欠けている一つに狙いを定めればいい。ボトルネックを一つ外すだけで、全体が動き出す。

Chapter 3 上司の関わりで、やる気は変わる

やる気の源がわかっても、日々の関わり方しだいで、それは伸びもすれば、しぼみもする。ここでは、上司のちょっとした振る舞いが、部下のやる気をどう左右するかを、うまくいった例と、いかなかった例で見ていく。よかれと思った関わりが、逆効果になることも、じつは少なくない。

失敗事例:ほめ方をまちがえると、やる気が下がる

部下をほめて伸ばそう。そう思って「さすが、優秀だね」と声をかける。悪気はない。むしろ善意だ。だが、このほめ方が、じわじわと部下を追い込むことがある。

能力をほめられた部下は、「優秀な自分」を守ろうとし始める。失敗すれば、その評価が下がる。だから、難しいことに挑戦しなくなる。研究でも、能力をほめられた子ほど挑戦を避け、努力やプロセスをほめられた子ほど挑戦を続けた、という結果が知られている。ほめる対象を間違えると、やる気は挑戦ではなく、防御に向かってしまう。

ほめるときは、結果や才能ではなく、過程を見てほしい。「よく粘ったね」「あの工夫がよかった」。努力とプロセスをほめる。それが、失敗を怖れず挑戦し続けるやる気を育てる。

失敗事例:詰める1on1が、口を閉ざさせる

部下との1on1。進捗を確認し、できていないことを問いただす。「なぜできなかったの?」「どうするつもり?」。上司は指導のつもりだ。だが、回を重ねるほど、部下の口は重くなっていく。

「なぜ」で詰める問いは、部下を追い込む。人は責められると、正直な情報を隠し、当たり障りのない答えを用意するようになる。1on1が「詰められる場」になった瞬間、それは部下にとって、なんとか乗り切るべき試練に変わる。本音も、相談も、出てこなくなる。指導のつもりが、対話を殺してしまうのだ。

1on1では、「なぜできなかった」ではなく「何があれば進みそう?」と聞いてみてほしい。過去を責めるのではなく、未来を一緒に探す。問いの向きを変えるだけで、場の空気が変わる。

成功事例:問いかけが、当事者意識を生む

指示どおりに動く部下は、指示がないと止まる。言われたことはやるが、それ以上は考えない。上司は「もっと自分で考えてほしい」と願う。だが、答えを与え続ける限り、それは起きない。

よく部下を伸ばす上司は、答えではなく、問いを渡す。「あなたなら、どうする?」「何が課題だと思う?」。問われた部下は、自分で考え始める。そして、自分で出した答えには、責任が生まれる。当事者意識とは、問いかけられ、自分で決める経験の中でしか育たない。教えるより、問うほうが、人は育つのだ。

部下が「どうすればいいですか」と聞いてきたら、すぐに答えず、まず問い返してほしい。「あなたは、どう考えている?」。この一往復が、指示待ちの部下を、当事者に変えていく。

意味づけ――「何のため」を渡す

目の前の作業に、部下が意味を感じられていない。「これ、何のためにやるんですか」。そう聞かれて、うまく答えられなかったことはないだろうか。意味の見えない仕事は、やる気を静かに吸い取っていく。

人は、意味を感じられる仕事に、力を注ぐ。同じ作業でも、「これは誰の役に立つのか」が見えると、取り組み方が変わる。上司の大切な仕事のひとつが、この意味づけだ。「この資料は、お客さまの判断を助けるものだ」。目的とつながった瞬間、単なる作業が、自分の仕事に変わる。

仕事を渡すとき、「これは何の役に立つのか」を一言そえてほしい。作業の先にいる人を見せる。意味は、やる気のいちばん深いところにある燃料だ。ここが枯れると、どんな刺激も効かなくなる。

Chapter 4 チームで試せる「動機づけ」ワーク

やる気の仕組みも、関わり方のコツも、読むだけでは血肉にならない。ここでも、体験で腹落ちさせることが大切だ。この章では、チームで試せる「動機づけ」のワークと、明日から使える具体的な問いを紹介する。難しい準備はいらない。会話と、少しの工夫でできるものばかりだ。

ワークの狙い――やる気の源を「言葉」にする

メンバーが何にやる気を感じるかを、上司はどれだけ知っているだろうか。人によって、火がつくポイントは違う。だが、それを本人に聞いたことがある上司は、意外と少ない。

このワークの狙いは、一人ひとりの「やる気の源」を、言葉にして共有することにある。ある人は挑戦に、ある人は感謝に、ある人は成長にやる気を感じる。それが見えると、仕事の任せ方も、声のかけ方も変わってくる。やる気は、当てずっぽうではなく、相手を知ることから引き出せるのだ。

次の1on1やチームの時間で、「どんなときに、やる気が出る?」と聞いてみてほしい。答えを覚えておくだけで、関わり方の精度が上がる。相手の火種を知ることが、動機づけの出発点になる。

ワーク:モチベーターマップ(15分)

「やる気を出せ」と言う前に、そもそも何がその人のやる気を上げるのかを、チームで話したことがあるだろうか。ないまま、気合いだけで空回りしていることは多い。

モチベーターマップは、その手がかりを見える化するワークだ。まず各自が、「最近、仕事でやる気が出た場面」を三つ書き出す。次に、それを「なぜやる気が出たのか」まで掘り下げる。挑戦できたから、感謝されたから、自分で決められたから――。最後に、チームで共有する。同じチームでも、やる気の源はこんなに違うのか、という発見が生まれる。

出てきた「やる気の源」を、メンバーの名前とセットでメモしておいてほしい。それは、一人ひとりに合った任せ方や声かけをするための、貴重な地図になる。

1on1を「詰め」から「引き出し」に変える3つの問い

1on1が、進捗確認と反省会になっていないだろうか。それでは、部下のやる気は上がらない。むしろ、お互いにとって億劫な時間になってしまう。

1on1を、やる気を引き出す場に変える問いがある。ひとつ、「最近、手応えを感じたことは?」(有能感)。ふたつ、「もっとこうしたい、と思うことは?」(自律)。みっつ、「困っていることはある? 手伝えることは?」(つながり)。この三つは、そのまま、やる気の三要素に対応している。詰めるのではなく、引き出す問いだ。

次の1on1で、この三つの問いを使ってみてほしい。順番に聞くだけでいい。部下が話す時間が増えるほど、その場は「詰める場」から「引き出す場」へと変わっていく。大事なのは、上司が答えを用意しないことだ。問いを投げたら、沈黙を怖れず、部下が言葉にするのを待つ。待つ時間そのものが、部下を主役にする。

小さな成功を、見える化して積み上げる

日々の仕事は、できて当たり前とみなされ、成長が見えにくい。手応えを感じられないまま、部下は少しずつすり減っていく。うまくいったことは、意識しないと流れて消えてしまう。

そこで効くのが、小さな成功を見える化することだ。週に一度、チームで「今週うまくいったこと」を一人ひとつ共有する。小さくていい。「あの対応、落ち着いてできた」。口に出すことで、本人も、周りも、成長に気づく。有能感とつながりが、同時に育つ。成果は、意識して光を当てないと、見えないまま消えていくものだ。

週末のミーティングの最後に、「今週の小さな成功」を一人ひとつ話す時間をつくってほしい。5分でいい。この小さな習慣が、チームのやる気を、静かに底上げしていく。

今日のまとめ

今回は、部下のやる気の本質を見てきた。やる気は、「出させる」ものではなく、条件がそろえば内側から湧いてくるものだ。その源は、自律・有能感・つながりの三つ。そして、ほめ方や問いかけ、意味づけといった日々の関わりが、その火を大きくも小さくもする。

アメとムチで一時的に動かすより、内側の火を育てるほうが、ずっと遠くまで続く。最後のワークは、ぜひチームで試してほしい。読むだけでなく、やってみることが、いちばんの近道だ。

次回は、その「引き出す」関わりの中心にある、1on1と対話の技術を、成功例と失敗例を交えて掘り下げる。一緒に考えていこう。あなたとあなたのチームのやる気を、あおラボはいつも全力で応援している。

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