OJTを形骸化させない!個人の成長を促す「問いかけ」の技術

「OJT」を形骸化させない。個人の成長を促す「問いかけ」の技術

HRパーソンの皆様、そして人材育成に情熱を注ぐ皆様、いつも組織の未来を見据えた真摯な取り組み、心から敬意を表します。

さて、私たちの組織にとって永遠のテーマの一つが「人材育成」、特にOJT(On-the-Job Training)ではないでしょうか。OJT担当者を任命しているのに、現場でOJTが形骸化している」「新人がただ言われたことだけをこなして、自律的な成長が見られない」—こうした課題感をお持ちのHRの方も多いと拝察します。

私たちの育成観の前提が、「知識を教え込めば人は育つ」という「他律的な視点」にある限り、OJTは単なる業務指示の場になりがちです。しかし、経営学の父、ピーター・ドラッカーは、「自らの成長に責任を持つのは、本人しかいない」と断言しています。

本日はこの「人は自ら育つ」という「自律的な視点」に立ち返り、OJTを単なる業務伝達の場から、部下の「気づき」と「内発的な成長」を促す場へと進化させるためのコーチング(問いかけ)の技術に焦点を当てて、具体的な方法論を探ってまいりたいと思います。

1. OJT形骸化の原因:「他律的な育成観」からの脱却

OJTが機能しない最大の原因は、育成側(上司・トレーナー)が「部下は教えれば育つ」という一方的な知識伝達の視点に囚われていることにあります。この「ティーチング偏重」の姿勢が、部下の成長の芽を摘んでしまいます。

1.1. ティーチングは「知識の伝達」、コーチングは「可能性の解放」

ティーチング(教えること)は、「正しい知識やスキル」を効率的に伝える上で不可欠です。しかし、それだけでは、部下は「指示待ち人間」になりがちです。一方で、コーチングは、部下自身の中に眠っている「答えや可能性」を引き出し、自ら行動変容を起こすように促す手法です。OJTの場では、知識伝達(ティーチング)と自律促進(コーチング)のバランスを意図的に取る必要があります。

1.2. ドラッカーの教え:「自らの成長に責任を持つ」

ドラッカーは、人が成長するのは、「自らに問いかけ、目標を持ち、それを達成するための行動を自ら選び取ったとき」であると示唆しています。HRパーソンがすべきことは、「成長の道筋」を敷くことではなく、部下が「自らの成長に責任を持とう」と思えるような、内省を促す環境と問いを提供することです。

1.3. OJTの目的を「業務習得」から「自律的成長の体感」へ再定義

OJTの本来の目的を、「業務スキルを100%習得させること」から、「業務を通じて、自分の強みや課題を発見し、成長を自律的に推進できるという成功体験を体感させること」へと再定義しましょう。この視点の転換こそが、OJTの質を一変させます。

2. 成長を促す「問いかけ」の技術:本質的な内省を引き出す

部下の内発的な気づきを促すためには、安易な解決策や結論を提示するのではなく、彼らの思考を深く掘り下げるような「問いかけ」が必要です。

2.1. 表面的な事象の裏にある「行動原理」に焦点を当てる

業務の失敗や成功について振り返る際、表面的な事実確認で終わらせず、その裏にある部下の「思考のプロセス」や「行動の根拠」を掘り下げる問いを投げかけましょう。

  • NGな問い: 「なぜこの業務は失敗したの?」
  • 成長を促す問い:「この業務に取り組む際、あなたは【最も重要視したこと】は何でしたか?」「その判断に至った【根拠や背景】を教えてもらえますか?」
    これにより、部下は自分の行動原理(強みや価値観)に気づき、それを改善や活用に繋げる内省が深まります。

2.2. 「メタ認知」を促す問いで自律性を高める

メタ認知(自分自身の思考や行動を客観的に認識する能力)は、自律的成長の要です。トレーナーは、部下が自分を客観視できるように誘導しましょう。

  • 問いの例: 「今回の成功/失敗を振り返って、次に同じ状況になったときの、あなたの『行動の選択肢』はいくつありますか?」「今のあなたにとって、最も挑戦的で、成長に繋がる目標は何だと思いますか?」

これにより、部下は「言われたからやる」ではなく、「自ら最善の選択肢を選び取る」という主体性が育まれます。

2.3. 「強みの意識的な活用」を促す質問で自信を醸成

ドラッカーが強調したように、成果は強みから生まれます。OJTの場で、部下の強みがどのように活かされたかを意識的に問いかけ、彼らの自己効力感を高めましょう。

  • 問いの例: 「今回の業務で、あなたが最も『楽に、自然と』できたと感じた部分はどこですか?」「その成果を生んだあなたの核となる行動特性(強み)を、意図的にどう活用しましたか?」

強みの意識的な活用を促すことで、部下は自信を持って次の挑戦に進むことができます。

3. OJTトレーナーの意識変革と組織的なサポート

問いかけの技術を現場に浸透させるためには、OJTトレーナー自身の意識変革と、それを支えるHR部門からの組織的なサポートが不可欠です。

3.1. トレーナーを「先輩」から「ファシリテーター」へ

HR部門は、OJTトレーナーに「業務を教える先輩」という役割だけでなく、「部下の成長対話を促進するファシリテーター」という役割の重要性を伝え、そのための研修を提供しましょう。ティーチングの知識よりも、傾聴力質問力、そして心理的安全性の確保が重要であることを強調すべきです。

3.2. 「対話ログ(記録)」を成長の資産として蓄積する

OJT面談や対話の記録を、「業務の進捗」だけでなく「部下の気づき」や「行動変容の記録」を主軸とした対話ログとして残す仕組みを導入しましょう。このログは、部下にとっては「成長の軌跡」であり、HR部門にとっては「育成観の改善」に繋がる貴重なデータとなります。

3.3. 時間的資源を「対話」のために確保する組織的コミットメント

問いかけによる育成は、一方的な指示よりも時間がかかるものです。HR部門は、トレーナーに対し、「質の高い対話には時間がかかること」を理解し、そのための時間的資源(例:週に1時間、部下との内省対話に集中する時間)を確保するよう、上層部を巻き込んだ組織的なコミットメントを得る必要があります。

4. まとめ:OJTを「自律成長の駆動エンジン」に

今日の記事では、「人は自ら育つ」という前提のもと、OJTを形骸化させず、部下の内発的な成長を促す「問いかけの技術」について考察しました。

4.1. 「内省」を深める問いで、行動原理を引き出す

部下の行動の裏にある「重要視したこと」や「行動の根拠」を掘り下げる問いを意識的に使うことで、部下は自らの思考のプロセスに気づき、成長のヒントを得ます。

4.2. メタ認知を促し、「自ら選択肢を選び取る」主体性を育む

「次に何をすべきか」を教えるのではなく、「次にどんな選択肢があるか」を考えさせることで、部下のメタ認知能力自律性を鍛えましょう。

4.3. 失敗を恐れず、「対話」に時間を投資する組織へ

OJTトレーナーがファシリテーターとしての役割を認識し、HR部門がそのための時間的資源組織的なコミットメントを提供すること。これが、OJTを組織全体の「自律成長の駆動エンジン」へと進化させる鍵となります。

次回のテーマは、「失敗」を成長に変える組織文化「心理的安全性」です。失敗を責めるのではなく、成長の機会と捉えるための具体的なフィードバック術を深く掘り下げます。

組織の成長は、そこで働く一人ひとりの自律的な成長の総和にほかなりません。皆様の育成の取り組みが、組織全体の生産性向上と、そこで働く方々の働きがいに繋がることを心から応援しております!

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