人事の課題

人材版伊藤レポート(2020年経済産業省)以降、人材の持つ能力を資源ではなく資本と捉え、最大限に活用するために投資をしていく「人的資本経営」が注目されています。

ざっくりですが、英語表記の方がわかりやすのではと思います。人的資源はhuman resourcesで、人的資本はhuman capitalです。

人的資本経営が注目されている背景には、企業がこれからの時代に事業活動を永続していくためには、ESG投資の取組みが必要要件になってきたことです。ESGは「Environment=環境」「Social=社会」「Governance=企業統治」の頭文字をとった言葉です。企業が長期的に成長し続けるためには、この3つの観点で事業リスクや事業機会を長期的に把握しなくてはいけないという考え方で世界的に広まってきています。

また、働く人の価値観やキャリア志向の多様化、コロナ禍から一気に加速した働き方の変化など、企業が変化せざるを得ない状況に直面していることがあります。

さらに、2023年の有価証券報告書からは、人的資本に関する一部の情報を開示することが義務づけられています。このような点を見ると、今後も人的資本経営は経営課題としてさらに重要視されていくことと思われます。

企業におけるヒトといえば、真っ先に人事となります。いま、人事部がどのような課題を抱えているのか、今後どのようなことに取り組んでいきたいかなどの実態調査の結果からピックアップしました。

人事部として取り組みたいテーマ・課題についての質問に対して、最も多かったのは「人材育成・組織開発」と回答した人事が全体の9割を超えていました。続いて「採用」でした。

人材育成・組織開発を推進する上でそのような課題があるのかの問いに対しては、従業員数300名以下では、「人材育成・組織開発を推進するメンバーの人で、時間が不足している」が63.7%、次に「現場社員の現業が忙しく、育成に割ける時間がない」が62.1%、「部署によって育成への意識に差がある」が56.6%でした。

一方で、301人以上では、「部署によって育成への意識に差がある」が67.4%、次に「人材育成・組織開発を推進するメンバーの人手、時間が不足している」が64.2%、「現場社員の現業が忙しく、育成に割ける時間がない」56.8%でした。

また従業員規模に関わらず、「人材育成・組織開発を推進するメンバーの知識が不足している」ことに半数以上の人事が課題を感じていることもわかりました。

育成環境についての課題については、300名以下で最も多かった回答は、「人材要件・教育体系の整備」で50.5%、次いで「キャリア開発の仕組みづくり」65.3%でした。301名以上ではこれらの項目がさらに高くなっていて、「キャリア開発の仕組みづくり」は15.3pt高い65.3%、「人材要件・教育体系の整備」は6.3pt高い56.8%でした。

また、300名以下では「社員の満足度の向上」「社員の自発的な学習ができる環境づくり」が301名以上よりも約9pt高く、4割超の人事が課題を感じていることもわかりました。

最後に、人事部がいまどのようなテーマに興味を持っているかについてです。300名以下で最も多かったのは「採用」で64.3%、次に「離職防止」で61.0%、「教育体系の構築・運用」が57.1%でした。301名以上で最も多かったのは「離職防止」で62.1%、次に「従業員エンゲージメント向上」が61.1%、「キャリア開発」が56.8%となっていました。

301名以上の企業では、人的資本経営が叫ばれているなか、その実現に向け歩んでいる様子が伺える結果ではないかと思われます。

企業の規模、上場非上場の区別なく、マネジメントにおける人的資本経営の志向は一過性のものではなく、これからのスタンダードとして認識することが大切ですね。

人的資本経営がこれからのマネジメントに欠かせないものとなる以上、人事部の存在とその役割はさらに重要になります。人手不足が続くなか、場当り的や一過性に終わる施策にならないよう、企業の中長期計画を見合わせながらも長期的な視点に立ち、これまでの人材戦略・人事戦略をリスケする勇気も必要になる場面を迎えることも想定されます。

改めて自社のビジョンを明瞭にし、会社が求める人材要件を明確にするためにも、従業員だけではなく多くの関わる人々に正しく伝えられるように言語化することが大事です。その後に教育方針や育成施策を系統的に策定し、トライアンドエラーで実践を重ね、構築することが必要です。その過程の中で、継続的な情報交換とリフレクションを繰り返すことで自社にとって独自性のある人事チームの構築ができるのではないでしょうか。

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