「どうすればいい?」に、すぐ答えないほうがいい理由
こんにちは、あなたとあなたの組織の未来を共に創造し、組織の活性化を支援している【あおラボ】です。
前回は、部下のやる気は「引き出す」ものだ、という話をした。そして、その中心にあるのが1on1だ、と最後に触れた。
今日は、その1on1を掘り下げる。部下が「どうすればいいですか」と聞いてくる。あなたはすぐに、的確な答えを返す。部下は「ありがとうございます」と去っていく。一見、いい上司だ。
だが、その部下は、次も同じことを聞きに来る。三か月経っても、自分では決められないままだ。もしかすると、丁寧に教えることが、部下の成長を止めているのかもしれない。今日は「教えない勇気」と、部下の力を引き出す対話術を、一緒に考えていく。
Chapter 1 「教える」が、なぜ人をダメにするのか
「教えることは、いいことだ」。私たちは、そう信じている。だが、この善意が、ときに部下の成長を止めてしまう。逆説的だが、よく人を育てる上司は、意外なほど教えていない。この章では、なぜ「教える」が人をダメにすることがあるのか、その仕組みを四つの角度から見ていく。
教えてもらえることに慣れると、自分で工夫しなくなる
求人広告に「先輩が丁寧に教えます」とある。安心できる言葉だ。だが、丁寧に教わり続けた部下が、数年後、指示がないと動けなくなる、ということが起きる。皮肉な話だ。
懇切丁寧に教えられる作業は、たいてい「正解のあるやり方」が決まっている。初心者のうちは、それでいい。だが、本当に力のある人材とは、やり方がわからない仕事を、工夫してやりきれる人だ。教えてもらうことに慣れると、「やり方がわからない仕事はできません」と止まってしまう。教えてもらえるのは、じつは例外なのだ、と知っておく必要がある。
すべてを教える前に、一度、部下に任せて考えさせてみてほしい。「まず、あなたならどう進める?」。工夫する余地を残すことが、自分で動ける人を育てる。
「教えたい」の裏にある、頼られたい気持ち
丁寧に教えることは、じつは気持ちがいい。部下に頼られ、感謝される。教えるほど、自分の存在価値を感じられる。だから、つい教えすぎてしまう。
正直に言えば、「教えたい」という気持ちの奥には、「頼られたい」という自分の欲求が隠れていることがある。これが行き過ぎると、無意識のうちに、部下が一人前になることを望まなくなる。「私がいないと回らない」状態が、心地よくなってしまうのだ。よく人を育てる人は、「人が育つのは、寂しいことでもある」と言う。自分を必要としなくなることが、育成のゴールだからだ。
教えたくなったとき、「これは部下のためか、それとも自分が頼られたいからか」と問うてみてほしい。初回に触れた、あの問いだ。動機を見つめ直すことが、教えすぎを防ぐ。
教えたやり方は、そのままには実行されない
よかれと思って、自分のやり方を細かく教える。だが、部下はそのとおりにはやらない。「せっかく教えたのに」と、がっかりする。そんな経験はないだろうか。
じつは、これは自然なことだ。人は、教えてもらったやり方を、自分のものとしては実行しない。腑に落ちて、自分で選んだやり方しか、身につかないからだ。コンサルティングの現場でも、あえて答えを示さず、顧客自身に考えさせる手法がよく使われる。答えを渡すより、答えにたどり着く手伝いをするほうが、人は動く。教えることと、相手が動くことは、別なのだ。
やり方を教える代わりに、「考えるための材料」を渡してみてほしい。「こういう視点もあるけど、どう思う?」。結論ではなく、考える枠を渡す。そのほうが、部下は自分の足で歩き出す。
教えない勇気は、放任とは違う
「教えるな」と言われると、「では、突き放せばいいのか」と受け取る人がいる。だが、それは誤解だ。教えないことと、放り出すことは、まるで違う。
教えない勇気とは、部下が自分で考える余地を、意図的に残すことだ。そこには、見守りと支えがある。困ったときに相談できる安心があり、方向がずれたら軌道修正する関わりがある。ただ、答えを先に与えないだけだ。放任は無関心、教えない勇気は深い関心。この違いは、必ず部下に伝わる。
答えを言うのを我慢するときは、「困ったら、いつでも聞いて」と一言添えてほしい。突き放すのではなく、支えながら任せる。この姿勢が、部下の挑戦を後押しする。見守られている部下は、安心して失敗できる。突き放された部下は、失敗を怖れて縮こまる。同じ「答えを与えない」でも、部下が受け取るものは正反対になる。

Chapter 2 1on1は「詰める場」ではなく「引き出す場」
教えないと決めたら、では1on1で何をするのか。1on1は、上司が指導し、詰める場ではない。部下が自分の考えを整理し、次の一歩を見つける場だ。主役は、上司ではなく、部下である。この章では、1on1の場をどう組み立てるか、その基本の姿勢を見ていく。
1on1の主役は、部下である
1on1というと、上司が進捗を確認し、指示を出す時間だと思っていないだろうか。上司が7割話して終わる1on1は、じつは少なくない。それは、上司のための時間になってしまっている。
だが、1on1の主役は、部下だ。この時間は、部下が自分の頭の中を整理し、モヤモヤを言葉にし、次にやることを自分で決めるためにある。上司の役割は、話すことではなく、話しやすくすることだ。主役が入れ替わると、1on1はまるで別の時間になる。部下が「これは自分のための時間だ」と感じられるかどうかが、すべてを分ける。
次の1on1の冒頭で、「今日は、あなたが話したいことを話す時間にしよう」と伝えてみてほしい。主役を渡す一言が、場の性質を変える。
話す時間の配分を、逆転させる
気づくと、上司ばかりが話している。アドバイス、指摘、そして昔話。部下は相づちを打つだけ。これでは、部下は考える機会を得られない。話し終えて満足するのは、上司のほうだ。
目安は、部下が8割、上司が2割だ。極端に聞こえるかもしれないが、それくらいで、ちょうどいい。上司が話す時間を減らすほど、部下が考え、言葉にする時間が増える。人は、話しながら考えを整理する生き物だ。だから、部下が話す時間そのものが、成長の時間になる。上司の仕事は、いい問いを投げて、あとは聞くことだ。
1on1で、自分が話している時間を意識してみてほしい。半分を超えていたら、話しすぎだ。ひとつ問いを投げたら、あとは聞き役に回ろう。もし部下が話さないなら、それは沈黙が苦手なのではなく、話していい場だと感じられていないのかもしれない。まずは上司が、口数を減らすところから始めたい。
アドバイスをこらえ、問いに変える
部下の話を聞いていると、すぐに「こうしたら?」と言いたくなる。答えが見えているのだから、教えたほうが早い。そう感じる。だが、そこにこそ、落とし穴がある。
そのアドバイスを、ぐっとこらえてほしい。先に答えを言うと、部下はそこで考えるのをやめる。同じ内容でも、問いに変えると効果が変わる。「私ならこうする」ではなく、「あなたは、どの選択肢を考えている?」。答えを渡すのではなく、部下の中から答えを引き出す。アドバイスは、部下が本当に行き詰まってからでも、遅くない。
「こうしたら」と言いたくなったら、それを問いに変換してみてほしい。「どうすれば、うまくいくと思う?」。アドバイスを一つ我慢するたびに、部下は一つ、考える力をつける。
沈黙を、こわがらない
問いを投げたあと、部下が黙り込む。沈黙が気まずくて、つい上司がしゃべってしまう。あるいは、ヒントを出してしまう。よくある場面だ。
だが、その沈黙こそが、部下が考えている時間だ。人は、すぐには答えられない問いを投げられたとき、頭をフル回転させる。そこで上司が口を出すと、せっかくの思考が止まってしまう。沈黙は、気まずさではなく、成長の時間だ。数秒待つだけで、部下は自分の言葉を見つけ始める。
問いを投げたら、心の中でゆっくり五つ数えるくらい、待ってみてほしい。沈黙に耐える。その数秒が、部下に「自分で考える」という経験を渡す。上司が沈黙に耐えられるようになると、部下は「急かされない」と感じ、より深く考えるようになる。待てることは、それ自体が一つの対話の技術なのだ。
Chapter 3 引き出す対話の技術――傾聴・問い・承認
1on1の姿勢が定まったら、次は具体的な対話の技術だ。引き出す対話は、大きく三つの要素でできている。傾聴、問い、そして承認。どれも特別な才能はいらない。意識すれば、今日からできることばかりだ。一つずつ、見ていこう。
傾聴――さえぎらず、最後まで聞く
部下が話している途中で、「つまり、こういうことね」と要約してしまう。あるいは、話をさえぎって自分の意見を挟む。悪気はないが、部下は「最後まで聞いてもらえなかった」と感じる。
傾聴の第一歩は、さえぎらないことだ。人は、最後まで聞いてもらえたと感じたとき、初めて安心して本音を出す。途中で要約されると、「もう分かられた」と感じ、深い話をしなくなる。聞くとは、黙って待つことでもある。相づちとうなずきで、「聞いているよ」と伝えながら、部下が話し切るのを待つ。それだけで、対話の深さが変わる。
部下が話しているあいだ、口を挟みたくなっても、まずは最後まで聞いてほしい。話が終わってから、「もう少し聞かせて」と促す。聞き切ることが、信頼の土台になる。
問い――「なぜ」より「何」「どうすれば」
「なぜできなかったの?」。この問いは、原因を探しているつもりでも、部下には責められているように響く。追い詰められた部下は、言い訳を探し始める。対話は、そこで止まる。
問いは、向きを変えるだけで、力が変わる。「なぜ」は過去と原因を、「何」「どうすれば」は事実と未来を向く。「何が起きた?」「どうすれば進みそう?」。同じ状況でも、こう聞かれると、部下は防御ではなく、解決を考え始める。以前の連載でも触れたが、これは自己認識を深める問いにも通じる。責める問いから、探す問いへ。この転換が、対話を前に進める。
「なぜ」と聞きたくなったら、「何」に置き換えてみてほしい。「なぜ遅れた」ではなく「何が障害になっている?」。問いの一語を変えるだけで、対話が前を向く。
承認――事実を、そのまま返す
部下を認めたいが、大げさにほめるのは、なんだか嘘くさい。かといって何も言わないと、部下は「見てもらえていない」と感じる。承認の仕方に、迷う上司は多い。
承認は、ほめることとは違う。事実を、そのまま言葉にして返すだけでいい。「先週より、報告が早くなったね」「あの場面で、自分から声をかけていたね」。評価を加えず、見たことをそのまま伝える。人は、正確に見てもらえたと感じたとき、認められたと感じる。おおげさなほめ言葉より、具体的な事実のほうが、ずっと深く届く。
部下の行動で、事実として気づいたことを、一つ言葉にしてほしい。「~していたね」と返すだけでいい。ちゃんと見ている、というメッセージが、何より部下を支える。
教えるべきときも、ある――その見極め
「教えない」を徹底しすぎると、今度は逆の問題が起きる。部下が本当に知らない知識まで、無理に考えさせてしまう。これは、ただの意地悪になってしまう。
教えない勇気は、「いつも教えない」という意味ではない。考えれば分かることは考えさせ、知らなければ分からないことは、教える。この見極めが大切だ。安全に関わること、会社のルール、専門的な知識。こうしたものは、はっきり教える。引き出すべきは「考え方」や「判断」であって、「知識」ではない。両者を混同すると、部下はただ迷うだけになる。
部下がつまずいたとき、「これは考えれば分かることか、知らないと無理なことか」を見分けてほしい。知識は教え、判断は引き出す。この切り分けが、対話をきちんと機能させる。

Chapter 4 チームで試せる「対話」ワーク
引き出す対話は、頭で理解しても、実際にやろうとすると難しい。つい、教えたくなる。だからこそ、体験して身体で覚えることが大切だ。この章では、チームやペアで試せる対話のワークを紹介する。どれも、その日のミーティングや1on1で、すぐに試せるものだ。
ワークの狙い――「聞く」を体で覚える
「傾聴が大事」とわかっていても、いざ部下を前にすると、つい口が動く。知識と行動のあいだには、思っている以上に距離がある。
このワークの狙いは、「聞くこと」の力を、体験で実感することにある。話を最後まで聞いてもらえると、人はどれだけ話しやすくなるか。逆に、さえぎられると、どれだけ話す気が失せるか。それを自分が体験すると、傾聴の大切さが腹に落ちる。教わるより、味わうほうが、身につくものだ。
次のチームの時間で、この後に紹介するワークを試してみてほしい。10分あればできる。上司自身も参加して体験することが、いちばんの学びになる。頭で「聞くのが大事」と百回思うより、一度「聞いてもらえて楽になった」と感じるほうが、行動は変わる。だからこのワークは、短くても効く。
ワーク:ペアで「聞くだけ」10分
私たちは、人の話を聞いているようで、じつは自分が次に何を言うかを考えている。純粋に「聞くだけ」は、意外と難しい。この難しさを体験するのが、このワークだ。
二人一組で行う。一人が3分、最近の仕事について話す。もう一人は、アドバイスも意見も言わず、ただうなずいて聞くだけ。3分たったら、役割を交代する。最後に、「聞いてもらってどう感じたか」「聞くだけをやってみてどうだったか」を、二人で話し合う。多くの人が、「ただ聞いてもらうだけで、こんなに気持ちが軽くなるのか」と驚く。そして、「聞くだけ」がいかに難しいかにも気づく。
このワークを、1on1を始める前に一度、体験しておいてほしい。「聞くだけ」の感覚を知っていると、本番の1on1で、口を出したくなる自分に、ブレーキをかけられる。
アドバイスを我慢する「問い返し」練習
部下に相談されると、反射的にアドバイスが口をついて出る。この癖は、意識しないと、なかなか抜けない。だから、練習でほぐしておくといい。
「問い返し」の練習は、こうだ。部下役が「~で困っています」と相談する。上司役は、アドバイスを一切せず、問いだけを返す。「もう少し詳しく教えて」「あなたは、どうしたい?」「何が一番のネックだと思う?」。三往復、問いだけで対話を続けてみる。やってみると、アドバイスせずに相手の考えを引き出すことが、いかに難しく、そしていかに効果的かがわかる。
チームで、この問い返し練習を、ロールプレイでやってみてほしい。笑いながらでいい。楽しみながら練習することで、本番でも、問いが自然に出てくるようになる。
1on1の型――3つのパートで組み立てる
1on1を「型」なしで始めると、つい進捗確認や雑談だけで終わってしまう。何を話す時間なのかが、あいまいになる。だから、簡単な型を持っておくといい。
三つのパートで組み立てる。ひとつ、近況(最近どう? 手応えや困りごと)。ふたつ、深掘り(部下が話したいテーマを、問いで掘り下げる)。みっつ、次の一歩(部下自身に、次にやることを決めてもらう)。この型があるだけで、1on1は「詰める場」から「引き出す場」へ、安定して変わる。型は、その場の迷いを減らすための道具だ。
次の1on1で、この三つのパートを意識してみてほしい。そして最後は必ず、部下自身に次の一歩を言葉にしてもらう。自分で決めたことは、実行される。型があると、話が脱線しても戻ってこられる。慣れてきたら、型は崩してかまわない。まずは、迷わないための足場として使ってほしい。
今日のまとめ
今回は、「教えない勇気」と、部下の力を引き出す対話術を見てきた。丁寧に教えることが、ときに部下の成長を止める。1on1の主役は部下であり、上司の役割は、話すことではなく、引き出すことだ。傾聴・問い・承認を意識し、沈黙を怖れず、部下が自分で答えにたどり着くのを待つ。
ただし、教えないことと、放り出すことは違う。知識は教え、判断は引き出す。その見極めが、対話をきちんと機能させる。
次回は、部下に「失敗させる」ことについて考える。任せて見守る勇気と、やってはいけない介入の境界線を、成功例と失敗例で掘り下げる。一緒に考えていこう。あなたとあなたのチームの対話を、あおラボはいつも全力で応援している。