体験で腹落ちする――チームで試せる育成ワーク集

「いい話だった」で終わる研修に、足りないもの

こんにちは、あなたとあなたの組織の未来を共に創造し、組織の活性化を支援している【あおラボ】です。

前回は、全員が同じ方向を向く、1枚岩のチームのつくり方を見てきた。ここまで、任せ方、動機づけ、対話、失敗、心理的安全性、そして方向を、一緒に考えてきた。

だが、正直に言えば、ここまで読んでも、明日から何かが変わるとは限らない。知識は、それだけでは、行動を変えないからだ。「わかった」と「できる」の間には、深い川が流れている。

その川に橋を架けるのが、体験だ。今日は、これまでの連載で紹介してきたワークを、1つの「道具箱」としてまとめ、その日のうちにチームで試せる形で、お渡しする。読んで終わりにせず、ぜひ、やってみてほしい。

Chapter 1 なぜ「体験」でしか腹落ちしないのか

「いい話を聞いた」で終わってしまう研修は、多い。その場では納得しても、現場に戻れば、元通り。なぜ、こうなるのか。それは、知識と行動が、別のものだからだ。この章では、なぜ体験でしか人は変わらないのか、その仕組みを確かめておこう。ここが腹落ちすると、ワークに取り組む本気度が、変わってくる。

知識は、それだけでは行動を変えない

本を読んだ。研修を受けた。「なるほど」と思った。だが、1週間後、行動は何も変わっていない。多くの学びが、こうして消えていく。もったいない話だ。

知識を得ることと、行動が変わることは、別の出来事だ。人は、「知っている」だけでは動かない。頭でわかっていても、いざその場面になると、いつもの癖が出る。行動が変わるのは、知識を、自分の体験と結びつけたときだ。だから、聞くだけの学びは、行動の入り口にはなっても、行動そのものは、変えにくい。学びを、体験で裏打ちする必要がある。

何かを学んだら、「知った」で満足せず、「一度、やってみる」までを、一区切りにしてほしい。小さくてもいい。試した瞬間に、知識は、あなたのものになり始める。

「わかる」と「できる」の、深い川

「傾聴が大事なのは、わかっている」「任せたほうがいいのも、わかっている」。頭では、わかっている。なのに、現場では、できない。この「わかるのに、できない」に、多くの上司が、もどかしさを感じている。

「わかる」と「できる」の間には、深い川が流れている。わかるのは、頭の仕事。できるのは、身体の仕事だ。自転車の乗り方を、本で読んでも乗れないのと同じで、実際に転びながら、身体で覚えるしかない。マネジメントも、同じだ。だから、ワークで「やってみる」ことに、意味がある。体験だけが、わかるを、できるに変えてくれる。

「わかっているのに、できない」と感じることがあったら、それはワークの出番だ。知識を責めるのではなく、練習の場をつくる。できるは、繰り返した回数で決まる。

体験→気づき→言語化の、サイクルを回す

ただ体験するだけでも、じつは足りない。やりっぱなしの体験は、流れて消えてしまう。「面白かった」で終わり、学びとして残らない。これも、よくある落とし穴だ。

体験を学びに変えるには、サイクルがいる。まず体験する。次に、「何を感じたか」に気づく。そして、それを言葉にする。この「体験→気づき→言語化」を回して初めて、体験は、身についた学びになる。ワークの後に、必ず「やってみて、どうだったか」を話し合うのは、このためだ。振り返りのない体験は、半分しか身につかない。

どのワークをやるときも、最後に「やってみて、何を感じた?」を、必ず話し合う時間をとってほしい。体験を、しっぱなしにしない。言葉にすることで、気づきが、自分のものとして定着する。

上司が、いちばん先に体験する

ワークを「部下にやらせるもの」だと思っていないだろうか。上司は、腕を組んで見ている。それでは、部下は「やらされ感」を抱く。場も、なかなか温まらない。

ワークがうまくいくかどうかは、上司が参加するかどうかで、大きく変わる。上司が、いちばん先に、いちばん本気で体験する。自分の弱さもさらけ出しながら、一緒にやる。その姿を見て、部下は「本気でやっていいんだ」と安心する。上司が一歩引いていると、ワークは、ただの形式になる。逆に、上司が飛び込めば、場は一気に、生きたものになる。

どのワークも、まず上司自身が、参加者の一人としてやってほしい。「やらせる」のではなく「一緒にやる」。その姿勢が、ワークに命を吹き込む。

Chapter 2 関係の土台をつくるワーク

ここからは、実際のワークを、道具箱として並べていく。まずは、チームの「土台」をつくるワークだ。何かを一緒にやる前に、安心して話せる関係と、お互いを知る土壌がいる。この章の4つは、どれも短く、その日のミーティングで、すぐに始められる。関係の温度を、少しずつ上げていくワークたちだ。

チェックイン――全員が、一言ずつ話す

会議で、いつも同じ人しか話さない。一度も口を開かないまま終わる人もいる。発言しない時間が続くほど、その人の声は、出にくくなっていく。

チェックインは、それをほぐす、いちばん手軽なワークだ。会議の冒頭、全員が一言ずつ話す。「今日の調子」でも「最近の小さな出来事」でもいい。所要時間は、3分ほど。狙いは、内容ではなく、「全員が声を出す」ことにある。人は、一度発言した場では、二度目も話しやすい。最初のひと声のハードルを、下げておく。それだけで、その後の議論に、全員が参加しやすくなる。

次の会議の冒頭に、チェックインを入れてみてほしい。順番に、一言ずつ。このわずかな時間の積み重ねが、「ここでは全員が話す」という空気を、静かに育てていく。

聞くだけ10分――傾聴を、体で覚える

「話をちゃんと聞こう」とわかっていても、つい口を挟んでしまう。アドバイスしたくなる。純粋に「聞くだけ」は、思いのほか、難しい。

このワークは、その難しさと効果を、体で味わうものだ。二人1組。1人が3分話し、もう1人は、意見もアドバイスも言わず、うなずいて聞くだけ。交代して、もう3分。最後に、「聞いてもらって、どう感じたか」を話し合う。多くの人が、「ただ聞いてもらうだけで、こんなに楽になるのか」と驚く。聞くことの力を、頭ではなく、身体で理解できる。1on1の前の、いい準備運動にもなる。

チームやペアで、この「聞くだけ10分」を試してみてほしい。聞いてもらう心地よさを知ると、自分も、人の話を最後まで聞きたくなる。それが、傾聴の第一歩になる。

「ありがとう」と「困っている」を、言い合う

感謝も、弱音も、日々の中では、意外と口に出されない。「言わなくてもわかるだろう」と思ううちに、関係は、少しずつそっけなくなっていく。

このワークは、その2つの言葉を、あえて声にする練習だ。週に一度、1人ずつ「最近、誰かに感謝したこと」と「今、困っていること」を話す。感謝は、人と人のつながりを温める。困りごとの共有は、「助けを求めていい」という安心をつくる。この2つが行き交うチームは、頼み事も、相談も、しやすくなる。強がりを手放せる場が、いざというときに、助け合えるチームを育てる。

ミーティングの終わりに、「ありがとう」と「困っている」を、一人ひとつずつ。照れくさくても、続けるうちに、自然になる。言葉にする習慣が、関係の温度を、じわじわと上げていく。

しくじり共有――失敗を、責めずに分かち合う

失敗は、たいてい、隠される。恥ずかしいし、責められたくないからだ。その結果、同じ失敗が、別の人によって、また繰り返される。個人の失敗が、チームの学びにならない。

「しくじり共有」は、失敗を、恥から学びに変えるワークだ。週に一度、一人ずつ「今週の小さなしくじりと、そこで気づいたこと」を話す。ポイントは、聞く側が、絶対に責めないこと。質問だけをする。誰かのしくじりが、他の人の失敗を防ぐ。失敗が、隠すものから、分かち合う情報に変わる。そして、この空気こそが、心理的安全性の土台になる。まず上司が、自分の失敗から話すと、場が開く。

チームで、しくじり共有を始めてみてほしい。最初は、笑える軽い失敗から。責めない空気さえ保てば、やがて、大事な失敗も、早く共有されるようになる。

Chapter 3 育成と方向づけのワーク

土台ができたら、次は、育成と方向づけに効くワークだ。この章の四つは、任せ方、やる気、対話、方向という、これまでの連載の核心を、体験に落とし込んだものだ。少し準備がいるものもあるが、どれも、チームの力を、目に見えて変えていく。手を動かしながら、共通の言葉をつくっていくワークたちだ。

3色仕分け――任せ方の線を、見える化する

どの仕事を誰が決めていいのか、チームで共有できていないことは多い。だから、抱え込みも、丸投げも起きる。「それ、勝手に進めてよかったの?」が、あちこちで起きる。

「3色仕分け」は、その境界を、みんなで見える化するワークだ。チームの主な仕事を付箋に書き出し、「任せる(緑)」「相談しながら(黄)」「上司がやる(赤)」の3色に分ける。上司と部下で認識がずれている仕事が、必ず出てくる。そのズレこそが、収穫だ。そのうえで、黄色の「どうなったら相談するか」を、具体的な言葉で決める。任せ方の共通言語が、チームに生まれる。

30分ほど時間をとって、この3色仕分けを試してみてほしい。決めた境界を一枚にまとめ、1週間、実験として運用する。任せる・任される、の迷いが、目に見えて減っていく。

モチベーターマップ――やる気の源を、知り合う

メンバーが何にやる気を感じるかを、上司はどれだけ知っているだろうか。火がつくポイントは、人によって違う。だが、それを本人に聞いたことのある上司は、意外と少ない。

「モチベーターマップ」は、一人ひとりのやる気の源を、言葉にして共有するワークだ。各自が「最近、やる気が出た場面」を3つ書き、「なぜ、やる気が出たのか」まで掘り下げる。挑戦できたから、感謝されたから、自分で決められたから――。それを全員で共有すると、「同じチームでも、こんなに違うのか」という発見が生まれる。相手の火種がわかれば、任せ方も、声のかけ方も、変えられる。

このワークで出た「やる気の源」を、メンバーの名前とセットで、メモしておいてほしい。それは、一人ひとりに合わせた関わりのための、貴重な地図になる。

問い返し練習――アドバイスを、我慢する

部下に相談されると、反射的にアドバイスが口をつく。この癖は、意識しても、なかなか抜けない。だから、練習で、ほぐしておくといい。

「問い返し練習」は、それをゆるめるロールプレイだ。二人1組。部下役が「~で困っている」と相談し、上司役は、アドバイスを一切せず、問いだけを返す。「もう少し詳しく教えて」「あなたは、どうしたい?」。3往復、問いだけで続けてみる。やってみると、答えを言わずに相手の考えを引き出すことが、いかに難しく、そして、いかに効くかがわかる。1on1の質が、ここで変わる。

チームで、この問い返し練習を、笑いながらやってみてほしい。楽しみながら繰り返すと、本番の1on1でも、アドバイスの前に、問いが自然と出てくるようになる。

北極星ワーク――方向を、一文にそろえる

チームの目指すものを聞くと、人によって、少しずつ答えが違う。長い説明はできても、一言では言えない。それは、方向が、まだそろっていないサインだ。

「北極星ワーク」は、チームの目指すものを、全員で一文にするワークだ。各自が「私たちのチームは、何のためにあるか」を一文で書き、持ち寄って、違いを話し合う。最後に、全員が納得する一文を、みんなでつくる。「私たちは、◯◯を通じて、◯◯に貢献する」。この一文が、迷ったときに立ち返る、北極星になる。短くする過程で、バラバラだった方向が、くっきりそろっていく。

チームで、目指すものを「一文」にしてみてほしい。きれいにまとまらなくても、その対話自体に、価値がある。決めた一文は、壁に貼って、いつも見えるようにしておこう。

Chapter 4 ワークを「続く仕組み」にする

ワークを知っても、やらなければ、何も変わらない。そして、一度やっただけでは、続かない。この章では、ワークを「一度きりのイベント」で終わらせず、チームの習慣にしていくための、4つのコツを見ていく。道具は、使い続けて初めて、力になる。せっかくの道具箱を、飾りにしないための工夫だ。

まず一つだけ、小さく始める

たくさんのワークを前にすると、「全部やらなければ」と気負ってしまう。そして、気負った結果、かえって何も始められない。完璧を目指して、動けなくなる。よくあることだ。

大切なのは、まず一つだけ、選ぶことだ。今のチームに、いちばん必要そうなものを、1つ。安全性が低いなら、チェックイン。任せ方が曖昧なら、3色仕分け。1つを選び、小さく始める。うまくいったら、次を足す。あれもこれもと欲張らず、1つずつ。小さな成功が、次のワークへの、弾みになる。全部を一度にやろうとすると、たいてい、続かない。

この道具箱から、今週やる1つを選んでほしい。それだけでいい。1つが根づいてから、次を考える。小さく始めることが、続けるための、いちばんのコツだ。

上司は、ファシリテーターに徹する

ワークの最中、つい上司が仕切りすぎたり、正解を言ったりしてしまう。すると、せっかくのワークが、上司の独演会になる。部下は、また受け身になってしまう。

ワークでの上司の役割は、答えを出すことではなく、場を回すことだ。問いを投げ、順番を促し、全員が話せるようにする。自分の意見は、最後か、あるいは一参加者として、控えめに。ファシリテーターに徹するほど、メンバーが主役になり、ワークは生きてくる。上司が黒子に回ることが、部下を前に出す。仕切るのではなく、支える。それが、ワークでの上司の立ち位置だ。

ワークを進めるとき、「自分は答えを言わない」と、あらかじめ決めておいてほしい。問いかけと、交通整理に徹する。上司が一歩引くほど、チームは、一歩前に出てくる。

「やりっぱなし」を防ぐ、振り返り

ワークをやって、「よかったね」で終わってしまう。次の週には、もう忘れている。単発のイベントは、その場は盛り上がっても、根づかない。よくある、もったいないパターンだ。

ワークを定着させる鍵は、振り返りにある。やった後、「何を感じたか」「次にどう活かすか」を、言葉にする。そして、1週間後に、もう一度集まり、「続けてみて、どうだったか」を確かめる。この振り返りが、体験を、習慣へと橋渡しする。やって終わりではなく、試して、振り返って、直す。この小さな回転が、ワークを、一過性で終わらせない。

ワークをやったら、その場で、1週間後の振り返りの日時を、決めてしまってほしい。予定に入れる。振り返りをセットにするだけで、ワークは、続く仕組みに変わる。

習慣にする――カレンダーに、埋め込む

「時間ができたら、やろう」。そう思っているうちに、ワークは、いつまでも始まらない。忙しさの中で、後回しにされ続ける。意志だけでは、習慣は、なかなかつくれない。

習慣にする、いちばん確実な方法は、時間を先に決めてしまうことだ。「毎週月曜の朝礼で、チェックイン」「隔週の金曜に、しくじり共有」。カレンダーに、繰り返しの予定として埋め込む。決まった時間に、決まったワークをやる。そう仕組み化すれば、意志の力に頼らなくても、続いていく。習慣は、根性ではなく、仕組みでつくる。この連載で、くり返し出てきた考え方だ。

やると決めたワークを、今すぐ、カレンダーに繰り返し予定として入れてほしい。時間を確保することが、続ける最大のコツだ。埋め込まれた予定が、あなたのチームを、少しずつ変えていく。

今日のまとめ

今回は、これまでの連載で紹介してきたワークを、1つの道具箱としてまとめた。知識は、それだけでは行動を変えない。「わかる」を「できる」に変えるのは、体験だ。チェックインやしくじり共有で土台をつくり、3色仕分けや北極星ワークで、育成と方向をそろえていく。そして、小さく始め、上司がファシリテーターに徹し、振り返りをセットにし、カレンダーに埋め込む。

道具は、使い続けて、初めて力になる。1つでいい。今週、始めてみてほしい。読んで終わりにせず、手を動かすこと。それが、腹落ちへの、いちばんの近道だ。

次回は最終回。この一か月で見てきたことを、どうチームの「文化」として根づかせ、続けていくか。上司としての在り方を、一緒に振り返る。あなたとあなたのチームの歩みを、あおラボはいつも全力で応援している。

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