「面接力」を再定義する。対話と共感で強みを見抜く採用面接術
人事の皆さん、こんにちは。
前回の記事では、採用活動における「ペルソナ」の罠を越え、自社の未来を創るための「強みペルソナ」を設定する重要性についてお話ししました。
「採用の軸」が明確になった今、次に問われるのは、その軸に合った人材を「見抜く力」、すなわち「面接力」です。
多くの企業では、面接が「企業が一方的に候補者を選考する場」として機能してしまっています。しかし、本当に必要な面接力とは、候補者の表面的なスキルや経験の確認に留まらず、その人の内面にある「人生観」「仕事観」という本質的な強みや価値観を引き出す「対話の力」です。
今日の記事では、心理学とドラッカーの教えに基づき、面接を「選考」から「対話」の場へと変革し、未来に貢献する本質的な強みを見抜くための面接術を解説します。
1. 面接を「選考」から「対話」へと変える理由
面接が「選考」の場である限り、候補者は「自分を良く見せよう」と、準備された模範解答を語りがちです。これでは、その人の本質的な強みや弱み、価値観を知ることはできません。面接を「対話」の場に変えることで、候補者は安心して本音を語り、企業側も深い洞察を得られるようになります。
1.1. 候補者の「本音」を引き出す共感力
面接で候補者が緊張するのは当然です。心理学の分野では、人が心を開くためには「心理的安全性」が不可欠だとされています。面接官が一方的に質問を続けるのではなく、候補者の発言に「傾聴」し、「共感」を示すことで、面接の場に安心感が生まれます。面接官の共感的な態度が、候補者の緊張を解き、準備された言葉の裏にある「本音」を引き出す鍵となるのです。
1.2. 企業と個人の「価値観のすり合わせ」の場
採用は、企業と候補者の「お見合い」に例えられます。一時の感情や表面的な魅力だけで決断すると、入社後のミスマッチにつながります。面接は、企業のミッション・ビジョンと、候補者の人生観・仕事観という二つの価値観が、長期的に共存できるかどうかを真摯にすり合わせる対話の場であるべきです。価値観が一致している人材は、困難な状況でも自律的に行動し、高いエンゲージメントを発揮してくれます。
1.3. 「強み」を活かすための配置を見極める
ドラッカーは、マネジメントの基本は「人の強みを活かすこと」だと説きました。採用面接の目的は、単に「採用/不採用」を決めることではなく、「この人のこの強みを、当社のどのポジションで最も活かせるか」を見極めることです。対話を通じて候補者の隠れた強みを発見できれば、最適な人材配置につながり、入社後の早期活躍を促すことができます。
2. 本質的な強みを見抜く「深掘り質問」の技術
対話を成立させるためには、候補者の内面にある「人生観」や「仕事観」に踏み込む、深い質問が必要です。表面的な経験ではなく、その行動の背景にある「動機」や「価値観」を探る質問を設計しましょう。
2.1. 「動機」を探る「なぜ?」の繰り返し
単に「学生時代に何を頑張ったか」ではなく、「なぜそれを選んだのか」「その活動を通じて、どんな価値を最も大切にしたいと思ったのか」と「なぜ」を意図した質問を繰り返すことで、候補者の内発的な動機に迫ります。内発的な動機こそが、入社後も持続的に高いパフォーマンスを発揮する源泉となります。
2.2. 「失敗経験」から「自己認識力」を見抜く
「最も大きな失敗や挫折は何でしたか?」という質問は、その事実を知るためではありません。失敗を客観的に分析し、そこから何を学んだかという「自己認識力」を見るためです。失敗を他責にせず、自分の行動や思考の課題として捉えられる人材は、入社後も成長し続ける可能性が高いと判断できます。面接官は、この「学びのプロセス」に焦点を当てて深掘りすべきです。
2.3. クリステンセン教授に倣い「資源配分」を問う
クリステンセン教授が人生の成功を測る「ものさし」として説いた「資源の配分」の視点を面接に取り入れましょう。
「時間やエネルギーといった資源を、これまで何に最も多く配分してきましたか?」
「入社後、仕事と私生活の資源配分をどのように考えていますか?」
これらの質問は、候補者の真の価値観がどこにあるのか、また、それが自社の求める働き方と合致しているかを見極めるヒントになります。
3. 面接官に必要な「傾聴・共感」の心理学テクニック
面接を「対話」に変えるためには、面接官が意識的に心理学的なテクニックを取り入れる必要があります。特に重要なのは、候補者に寄り添い、言葉の裏にある感情や意図を読み取る「傾聴」と「共感」の技術です。
3.1. バックトラッキング(オウム返し)で安心感を創る
候補者の話の一部を繰り返す「バックトラッキング(オウム返し)」は、心理的安全性を作り出す最も簡単なテクニックです。
候補者:「あのプロジェクトは、正直、プレッシャーで寝不足になるほど大変でした。」
面接官:「プレッシャーで寝不足になるほど大変だったのですね。詳しく教えていただけますか?」
このように返すことで、「私はあなたの話を真剣に聞いていますよ」というメッセージが伝わり、候補者はさらに深く話そうという気持ちになります。
3.2. 感情を代弁する「感情のミラーリング」
候補者の話から感じ取った感情を、言葉にして返す「感情のミラーリング」は、共感を深める強力な手法です。
候補者:「結果としてうまくいったのですが、当時は本当に不安で…」
面接官:「不安を感じながらも、やり遂げられたのですね。その不安をどう乗り越えたのか、詳しくお聞かせください。」
感情を代弁することで、候補者は「この面接官は自分を理解しようとしてくれている」と感じ、信頼関係が一気に深まります。
3.3. 沈黙を恐れず「待つ」姿勢
面接官は、質問をした後、候補者が考えるための「沈黙」を恐れてはいけません。沈黙は、候補者が本質的な答えを探しているサインです。性急に次の質問に移るのではなく、数秒間静かに待つことで、深い自己開示を促すことができます。

一人の日本人人事
4. 「面接力」を高め、採用ミスマッチを防ぐ組織的な取り組み
「面接力」は、一部の優秀な面接官だけに依存するものではありません。組織全体で面接の質を高め、採用ミスマッチを防ぐための仕組みを構築することが、人事の重要な役割です。
4.1. 評価基準の言語化と共有
前回の記事で作成した「強みペルソナ」に基づき、何を評価するのかを明確に言語化し、すべての面接官と共有しましょう。この評価基準には、「求める強み」「行動特性」「価値観の一致度」といった項目を含め、面接官の主観的な判断を極力排除することが大切です。
4.2. 面接官トレーニングの徹底
面接官は、傾聴、共感、深掘り質問といったスキルを学ぶための定期的なトレーニングが必要です。単なる座学ではなく、ロールプレイングを通じて、フィードバックし合う「面接官サークル」のような実践的な場を設けることで、組織全体の面接力を底上げすることができます。
4.3. 採用活動の「振り返り」を習慣化する
ドラッカー流の「振り返り」を面接活動にも取り入れましょう。
「なぜ、この候補者を採用したのか?」
「なぜ、この候補者は早期離職したのか?」
これらの問いを、入社後のパフォーマンスと照らし合わせて検証することで、採用プロセスのどこに盲点があったのかを特定し、次回の採用活動に活かすことができます。
5. まとめ:対話を通じて、未来の組織を創造する
今日の記事では、面接を「対話」の場へと変革し、候補者の本質的な強みを見抜くための技術についてお話ししました。
5.1. 採用は、未来の文化を創ること
採用面接は、単なる一対一のやり取りではありません。それは、あなたの会社の未来の組織文化を創り出す、極めて戦略的な活動です。対話を通じて、自社の価値観に共鳴し、ともに成長できる人材と出会うことができれば、組織の進化は加速します。
5.2. 人事こそが「最高の聞き手」になる
心理学とドラッカーの教えは、「人は、理解された時に最も能力を発揮する」という普遍的な真実を示しています。人事パーソンは、誰よりも優れた「聞き手(リスナー)」となり、候補者一人ひとりの内面にある強み、価値観、そして可能性を深く理解する必要があります。
さあ、あなたの「面接力」を再定義し、真の対話を通じて、自社の未来に貢献する最高の仲間を見つけ出しましょう。あなたの戦略的な挑戦を心から応援しています。
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