その「やりたいこと」は本音か?働く目的を掘り下げるドラッカー流の問い
皆さん、こんにちは。今連載記事は、特に27年・28年に卒業予定である学生の皆さんに向けたものになっています。
前回の記事では、「3年3割」という早期離職問題の背景に「過去の自分らしさ」への固執があること、そして、企業が本当に求めているのは皆さんの「未来へのポテンシャル」であることをお伝えしました。
さて、自己分析を進める中で、「自分が本当にやりたいことって何だろう?」という壁にぶつかっている人も多いのではないでしょうか。もしかしたら、「やりたいことが見つからないと、就活の軸が定まらない…」と焦っているかもしれません。
しかし、その「やりたいこと」は、本当に心の底から湧き上がってくる本音でしょうか? もしかすると、世間のイメージや、周囲の期待に無意識のうちに影響されてしまっている可能性はありませんか?
今日の記事では、経営学の父、ピーター・ドラッカーの「貢献」という普遍的な教えを紐解きながら、表面的な「やりたいこと」のその先にある、働く真の目的を深く掘り下げる方法を解説します。企業が皆さんに求めるのは、皆さんの「欲求」ではなく、「何を成し遂げたいのか」という本質的な問いへの答えだからです。
1. 「やりたいこと」探しが陥りがちな罠:表面的な自己満足からの脱却
多くの就活生が「やりたいこと」探しに時間を費やします。しかし、それが表面的な欲求に留まっていると、入社後に「こんなはずじゃなかった」というミスマッチの原因になることも少なくありません。
1.1. 「やりたいこと」の裏に隠れた「欲求」に気づく
「海外で働きたい」「社会貢献したい」「人から感謝されたい」――これらは立派な「やりたいこと」のように見えますが、その根底にはどんな「欲求」が隠れているでしょうか?例えば、「海外で働きたい」の裏には「新しい環境で刺激を受けたい」という成長欲求や、「周りからすごいと思われたい」という承認欲求があるかもしれません。心理学的に見ると、自分の深層心理にある欲求を認識せずに表面的な「やりたいこと」だけを追いかけると、本質的な満足は得られにくいものです。
1.2. 企業が本当に知りたいのは「貢献意欲」である
採用現場の視点から言えば、企業が知りたいのは皆さんの「やりたいこと」そのものよりも、皆さんの「やりたいこと」が、企業のミッションや事業を通じて、社会や顧客にどう「貢献」できるかという点です。例えば「海外で働きたい」という希望だけでは、企業は「自社でなくても良いのでは?」と感じてしまいます。重要なのは、「御社の海外事業を通じて、〇〇という形で社会に貢献したい」と、自分の「やりたいこと」を企業の「貢献」と結びつけることです。
1.3. 「なんとなく良さそう」の危険性
「なんとなく面白そう」「キラキラしてそう」といった理由で「やりたいこと」や企業を選んでしまうのは、非常に危険です。このような表面的な理由では、仕事の困難に直面したときにすぐに挫折しやすくなります。連載第1回で話した「3年3割」問題の一因は、まさにこの「なんとなく」で決めてしまうことにあります。自分にとっての「働く」とは何か、深く掘り下げることが、ミスマッチを回避する第一歩です。
2. ドラッカーの教え:「貢献」こそが働く目的である
経営学の父であるピーター・ドラッカーは、働くことの本質を「貢献」に見出しました。自分の強みや知識を活かして、組織や社会にどのような価値を提供できるのか、という問いこそが、真の働く目的を見つけるための羅針盤となります。
2.1. 「何を成し遂げたいか」という問いへの転換
ドラッカーは、「何がしたいか」ではなく、「何を成し遂げたいか(What do you want to accomplish?)」と問いかけることの重要性を強調しました。この問いは、皆さんの思考を「自分の欲求」から「外部への影響」へと転換させます。例えば、「企画職がしたい」という「やりたいこと」を、「〇〇を通じて、人々の生活を豊かにするような企画を成し遂げたい」と置き換えることで、具体的な貢献のイメージが湧いてきます。
2.2. 「強み」を「貢献」に結びつける思考法
皆さんの「強み」は、ただ持っているだけでは意味がありません。その強みを「誰の、どんな課題解決に活かせるか」、つまり「貢献」の視点と結びつけることで、初めて真の価値を発揮します。
例えば、「私の強みは粘り強さです」で終わるのではなく、「私の粘り強さは、お客様の困難な課題にも最後まで向き合い、御社のソリューションを通じて貢献することで、顧客満足度向上に役立ちます」と語ることで、単なる特性が具体的な貢献へと昇華されます。
2.3. 「貢献」から逆算する企業選び
「貢献」の視点を持つと、企業選びの軸も変わります。単に「大手だから」「安定しているから」ではなく、「自分の強みや成し遂げたいことが、この企業のどの事業、どのミッションと最も合致し、貢献できるか」という視点で企業を絞り込むことができます。これにより、企業の表面的な情報に惑わされず、本質的なマッチングを見極める力が養われます。
3. 「働く目的」を深掘りする心理学的アプローチ
「貢献」という概念を理解しても、それが自分にとってどんな意味を持つのか、どう具体化すればいいのか悩むかもしれません。ここでは、心理学的なアプローチを用いて、皆さんの内面に深く潜り込み、働く目的の本音を探る方法を紹介します。
3.1. 「最高の体験」を構成要素で分析する
皆さんが過去に「最高に充実していた」「心が満たされた」と感じた経験を一つ具体的に思い出してください。それはどんな状況でしたか? どんな人たちと? どんな役割で? 「なぜ、その時最高だと感じたのか?」その経験を構成する要素(例:課題解決、チームワーク、人からの感謝、新しい発見)を書き出しましょう。この要素こそが、皆さんの「働く目的」のヒントが隠されています。
3.2. 「嫌だったこと」から逆説的に価値観を見つける
「やりたくないこと」を徹底的にリストアップするのも有効な自己分析です。「単調な作業は嫌」「意見を聞き入れてもらえないのは嫌」といった「嫌だったこと」の裏側には、皆さんが本当に大切にしている価値観が隠されています。「単調な作業が嫌」なら「創造性や変化を求める」価値観があるのかもしれません。「意見を聞き入れてもらえないのが嫌」なら「対話や承認を求める」価値観があるのかもしれません。これらは、皆さんの働く目的を明確にする重要な手がかりとなります。
3.3. 「自己効力感」を高める小さな成功体験の言語化
心理学の概念である「自己効力感」とは、「自分には目標を達成する能力がある」という自信のことです。皆さんが過去に経験した、どんなに小さなことでも構いません。「〇〇を頑張って成功できた」「△△を工夫して改善できた」という経験を言語化してみましょう。その成功体験の裏には、皆さんが「得意だと感じる分野」や「熱中できること」が隠れています。これらを「働く目的」と結びつけることで、自信を持って企業に貢献意欲をアピールできます。
4. 採用現場が評価する「働く目的」の語り方
採用面接で「働く目的」を語る際、人事担当者は皆さんの言葉の奥にある本質的な思考力と企業へのマッチング度を見極めようとしています。表面的な言葉だけでなく、深い洞察と具体的な未来像を伝えることが重要です。
4.1. 企業のミッションと「自分の貢献」を具体的に接続する
「御社で働きたいです!」と熱意だけを伝えるのではなく、「御社の『〇〇(企業ミッション)』というビジョンに強く共感しています。私の△△(強み)を活かし、特に◇◇事業において、どのような形で貢献していきたいと考えています」と、具体的に自分の貢献を企業のミッションに接続して語りましょう。これにより、皆さんが企業を深く理解していることと、入社後の具体的な活躍イメージを伝えることができます。
4.2. 「挑戦したいこと」と「成長したいこと」をセットで語る
「御社で新しい技術に挑戦したいです!」と語るだけでは、自己満足で終わる可能性があります。挑戦したいことと、その挑戦を通じて「どんな自分に成長したいか」、そしてその成長が「企業にどんな貢献をもたらすか」をセットで語りましょう。「御社の新規事業でAI開発に挑戦し、その過程でチームを率いるリーダーとしての経験を積み、未来の社会課題解決に貢献できるエンジニアに成長したいと考えています」のように具体的に表現することで、採用担当者は皆さんの将来性を強く感じます。
4.3. 「働く目的」が「企業文化」と合致しているかを見極める質問
逆質問の機会では、皆さんの「働く目的」がその企業の文化と合致しているかを見極めるチャンスです。例えば、「御社では、社員が新しい挑戦をする際、どのようなサポート体制がありますか?」や、「失敗から学ぶ文化をどのように醸成されていますか?」といった質問は、皆さんが「成長と貢献」を重視していることを示唆し、企業文化への深い関心があることをアピールできます。

5. 自分の「働く目的」を見つけるための実践ワーク
「働く目的」は、一度見つけたら終わりではありません。キャリアの段階に応じて深まり、変化していくものです。ここでは、皆さんが今日から実践できるワークを紹介します。
5.1. 「キャリアジャーニーマップ」を描いてみる
大きな紙に、これまでの人生で「嬉しかったこと」「辛かったこと」「頑張ったこと」「学んだこと」などを、時系列で書き出してみましょう。それぞれの出来事の横に、「なぜそう感じたのか?」「そこから何を大切にしたいと思ったか?」という問いを書き加えます。この「キャリアジャーニーマップ」は、皆さんの過去の経験から、未来の働く目的に繋がる一貫したテーマや価値観を見つける手助けになります。
5.2. 「尊敬する人」の「貢献」を徹底的に分析する
皆さんが「この人のようになりたい」と尊敬する人(身近な先輩、著名人、歴史上の人物など)を一人選び、その人が「何を成し遂げたか(貢献したか)」を徹底的に分析してみましょう。その人のどのような行動や思想が、皆さんの心を惹きつけるのでしょうか? その分析を通じて、皆さんが「社会に対してどんな貢献をしたいか」という具体的なイメージを掴むことができます。
5.3. 週に一度「貢献ログ」をつけてみる
アルバイトや学業、サークル活動など、どんな小さなことでも構いません。週に一度、「今週、自分が誰かのために、あるいは何か目標のために貢献できたことは何だろう?」と振り返り、ノートに書き出してみましょう。この「貢献ログ」は、皆さんが普段、無意識のうちにどんな形で他者に価値を提供しているかを可視化し、自分の「働く目的」を形作る具体的な手がかりとなります。
6. まとめ:働く目的は「発見」ではなく「創造」するもの
今日の記事では、就活における「やりたいこと」の罠を避け、ドラッカーの「貢献」という視点から、働く真の目的を深く掘り下げる方法についてお話ししました。
6.1. 「働く目的」は、自己の内面から湧き出る「未来への意思」
「働く目的」は、どこかに隠された宝物のように「発見」するものではありません。それは、皆さんが「どんな自分になりたいか」「どんな未来を創りたいか」という、自己の内面から湧き出る「未来への意思」を創造するプロセスです。
6.2. 貢献を軸に、あなただけのキャリアを創造しよう
「何がしたいか」という問いから、「何を成し遂げたいか」というドラッカーの問いへと視点を転換し、自分の強みを活かした「貢献」を軸に据えることで、皆さんの就職活動は、一貫性のある、そして深く納得感のあるものへと変わります。
さあ、皆さんの内なる「貢献意欲」に耳を傾け、未来の社会をどう豊かにしていくのか、あなただけの壮大な物語を創造し、自信を持って企業に語りかけてください。あなたの未来の活躍を心から応援しています!