共に育ち信頼を深める。「共育」で組織を活性化

共に育ち信頼を深める。ドラッカー流「共育」で組織を活性化

中小企業のHR担当者の皆さん、こんにちは。連載もいよいよ佳境、第4週のスタートです。

「せっかく採用したのに、なかなか育たない」「教育にかける時間がない」……そんな現場の溜息を、活性化へのエネルギーに変える時が来ました。

教育とは、単に上の人間が下の人間へ「やり方」を教える作業ではありません。ドラッカー先生が説いたように、知識労働者にとっての教育は、教える側も教わる側も共に成長する「継続学習」のプロセスです。今回は、心理学的な「成長マインドセット」を土壌に、信頼をインフラとした「共育(きょういく)」の仕組みを掘り下げます。

ドラッカーが説く「知識労働者の育成」:教えることは学ぶことである

ドラッカーは、知識労働者の生産性を向上させるための条件として「継続学習」を挙げ、その中でも「教えること」が最大の学習になると説きました。中小企業において、HRが目指すべきは「教える人」を固定するのではなく、全員が「学び合い、教え合う」文化を創ることです。

強みを基盤にした「オーダーメイド」の育成計画

ドラッカーは「人の教育は、その人の強みを基準にしなければならない」と厳しく説きました。弱みを克服させるための画一的な教育プログラムは、社員の情熱を削ぎ、組織の活性化を阻害します。HRは、社員一人ひとりの「強み」を棚卸しし、その強みが最大限に発揮されるための、いわばオーダーメイドの育成支援をデザインすべきです。「自分の良さを認められている」という実感が、組織への深い信頼に繋がります。

「教える役割」を若手に与えるという逆転の発想

「学ぶための最良の方法は教えることである」というドラッカーの言葉を、実際の制度に落とし込みます。入社2~3年目の若手に、新人のメンターや社内勉強会の講師を任せてみてください。教える責任を持つことで、若手自身が自らの知識を整理し、プロとしての自覚(真摯さ)を深めます。この「教えることによる成長」の連鎖が、組織全体の知識レベルを底上げし、自律的な活性化を生み出します。

成果への責任を伴う「アウトプット型」学習

座学研修だけで人は育ちません。ドラッカーは「成果に対する責任を持たせること」が最大の教育であると説きました。研修で学んだことを、実際の業務課題の解決にどう活かすか。学習と実践をセットにし、その成果を評価に組み込むことで、教育は「自分事」へと変わります。「学んだことが成果に繋がり、称賛される」という成功体験が、社員の自己効力感を飛躍的に高めます。

「継続学習」を組織のルーティンに組み込む

知識には「賞味期限」があります。ドラッカーは、知識労働者は一生学び続けなければならないと言いました。HRは、週に一度の「ナレッジ共有会」や、書籍購入支援制度、外部セミナー受講の推奨など、学びが「特別なこと」ではなく「日常の呼吸」になるようなインフラを整えるべきです。組織全体が常にアップデートされているという感覚が、未来への期待と信頼を醸成します。

教える側の「真摯さ」こそが最強の教科書

ドラッカーが最も重視した資質、真摯さ(Integrity)。これは言葉で教えるものではなく、教える側の「背中」で伝えるものです。HRは、社内の教育担当者や上司に対し、「あなたの行動そのものが、部下の教科書である」という自覚を促す必要があります。誠実に仕事に向き合い、自らも学び続けるリーダーの姿。その姿に触れることこそが、最高のキャリア形成指導となり、次世代のリーダーを育てるのです。

心理学が解き明かす「成長のメカニズム」:自己効力感を爆発させる

なぜ、ある人はどんどん成長し、ある人は立ち止まってしまうのか。その鍵は、心理学における「成長マインドセット」と「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」にあります。HR担当者が、社員の心のスイッチを押し、信頼をエネルギーに変えるための心理学的アプローチを解説します。

「成長マインドセット(しなやかマインドセット)」の醸成

心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「成長マインドセット」とは、能力は努力次第で伸ばせると信じる心です。逆に「能力は生まれつき決まっている」と考える硬直マインドセットは、挑戦を避け、活性化を阻みます。HRは、成果そのものよりも「努力のプロセス」や「挑戦した姿勢」を称賛する言葉(フィードバック)を組織の共通言語にすべきです。この評価の視点の転換が、失敗を恐れない強い組織を創ります。

「自己効力感」を高める4つの源泉を活用する

アルバート・バンデューラが提唱した自己効力感を高めるには、①遂行行動達成(小さな成功体験)、②代理経験(モデルとなる先輩の存在)、③言語的説得(励まし)、④生理的情緒的状態(心身の健康)の4つが必要です。HRは、新人にまず「絶対に成功できる小さなタスク」を与え、適切なロールモデルを紹介し、「君ならできる」と声をかけ続ける仕組みを設計しましょう。この心理学的裏付けのある支援が、社員の「できる」という確信を支えます。

ピグマリオン効果で「期待の力」を味方につける

他者からの期待がパフォーマンスを向上させる「ピグマリオン効果」。上司が部下を「将来のリーダー」として心から信頼し、期待をかけることで、部下はその期待に応えようと自走し始めます。HRは、上司に対して「部下をどう見ているか」という内省を促す必要があります。あなたが信じた分だけ、人は育つ。この「信頼の先行投資」が、組織の温度を上げ、活性化の火を灯します。

「フロー体験」へと導く難易度調整の技術

心理学者チクセントミハイが提唱した「フロー」とは、我を忘れるほど仕事に没頭している状態です。この状態に導くには、仕事の「難易度」と本人の「スキル」のバランスが最適である必要があります。簡単すぎれば退屈し、難しすぎれば不安に陥ります。HRは、現場のマネージャーに対し、部下のフロー状態を観察し、適切なタイミングで「少しだけ背伸びが必要な課題」を与える技術を伝授すべきです。没頭こそが、成長の高速道路です。

「心理的安全性のバリア」が学びを加速させる

第2週でも触れましたが、教育の場こそ心理的安全性が不可欠です。「こんな初歩的なことを聞いたらバカにされるかも」という恐怖心は、学習を停止させます。HRは、研修やOJTの場において「わからないことをわからないと言うこと」を最高の徳目として定義しましょう。無知をさらけ出し、教えを請うことができる。その「脆弱性」を許容する文化が、結果として最も効率的で強固な組織学習を実現します。

中小企業の「共育システム」構築術:限られたリソースを最大化する

大企業のような豪華な研修センターや多額の予算はなくても、中小企業には「現場のリアリティ」という最強の教材があります。HR担当者が主導すべき、低コストで高付加価値な、3つの具体的アクションを提案します。

ステップ1:暗黙知を可視化する「ナレッジ・シェア・ジャーニー」

ベテラン社員が持つ「コツ」や「勘」は、組織の宝ですが、言語化されず埋もれがちです。HRは、ベテランと若手がペアを組み、現場のノウハウを動画やマニュアルに落とし込むプロジェクトを立ち上げてください。ドラッカーが説いた知識の共有を、アナログとデジタル(スマホ動画等)を組み合わせて実践します。このプロセス自体が、世代間の信頼を深め、技術承継を確実なものにします。

ステップ2:「読書会」による共通言語のインストール

ドラッカーの『経営者の条件』や、最新の心理学、専門書などをテーマにした読書会を定期的に開催します。単に読むだけでなく、「自社の課題にどう当てはめるか」を議論(ダイアローグ)します。同じ本を読み、同じ言葉で議論することで、組織内に「共通言語」が生まれます。言葉が共通化されることでコミュニケーションコストが下がり、意思決定のスピードと信頼度が格段に向上します。

ステップ3:社外の風を入れる「越境学習」の推奨

井の中の蛙にならないよう、外部の勉強会や他社との交流会への参加を積極的に支援します。社外で得た知見を社内に持ち帰り、報告会を行うことをルール化してください。ドラッカーは「知識は共有して初めて価値を持つ」と言いました。外からの新しい刺激が、マンネリ化した組織に「健全な違和感」をもたらし、イノベーション(活性化)の種を蒔きます。HRは「外に出る」ことをリスクではなく成長機会と捉えるべきです。

ステップ4:失敗を「ラーニング・アセット」に変える振り返り

トラブルやミスが発生した際、犯人探しをするのではなく、「この事象から何を学べるか?」を徹底的に議論する「ポストモーテム(事後分析)」の場をHRが設定します。心理学的に失敗を「資産」として捉え直すことで、社員は萎縮せずに再挑戦(レジリエンスの発揮)ができます。失敗を糧にする文化こそが、最強の学習組織を創ります。

ステップ5:キャリアコンサルティングの定例化

国家資格キャリアコンサルタントとして強調したいのが、個人の「中長期的なキャリア」と「日々の仕事」を接続する支援です。HRは、年に一度は全社員と個別のキャリア面談を行い、「将来どうなりたいか」を真摯に聴きます。自分のキャリア目標と会社の成長が繋がっていると感じたとき、社員の学習意欲(内発的動機づけ)は最大化されます。これは、究極の「自己管理」を促すアプローチです。

「教える力」をマネジメントの核に:リーダー育成の新しいパラダイム

リーダーの仕事は、成果を出すことだけではありません。ドラッカーは「マネージャーの定義は、他者の成長に責任を持つ人である」としました。HRは、管理職の評価基準に「部下をどれだけ育てたか」という項目を明確に据え、彼らの「教育力」を高める支援を行う必要があります。

メンタリングとコーチングの使い分け

心理学的手法であるコーチング(問いかけによる引き出し)と、メンタリング(経験に基づく助言)を、部下の成熟度に合わせて使い分けるスキルをリーダーに教育します。ドラッカー流の「自律」を促すには、答えを与えるのではなく、問いを与えるコーチングが有効です。HRは、この「聞く技術」と「問う技術」を、リーダーシップ研修の最重要項目として位置づけるべきです。

「シャドーイング」でプロの思考プロセスを盗む

優れたリーダーの行動を、若手が影のように寄り添って観察する「シャドーイング」。言葉にできない「真摯な判断」や「顧客への誠実な対応」を、ライブで体験させます。心理学の「モデリング」の効果を最大限に活かしたこの手法は、教育コストをかけずに高い効果を生みます。HRは、この「徒弟制度の現代版」を積極的にコーディネートしましょう。

フィードバックの質が「信頼の解像度」を決める

「頑張っているね」という曖昧な褒め言葉ではなく、ドラッカーが説くように「具体的にどのような貢献をしたか」という事実に基づいたフィードバックを徹底させます。心理学的には、具体的な賞賛は行動を強化(正の強化)し、安心感を与えます。厳しい指摘であっても、それが「あなたの成長(強み)のためである」という真摯な意図が伝われば、それは最高の信頼構築となります。

「委任(デリゲーション)」という最高の教育

ドラッカー先生は、部下の成長を促すには「責任ある仕事」を任せること以外にないと言いました。失敗のリスクを承知の上で、一歩上の仕事を任せる。その際、HRはリーダーに対し「放任」ではなく、適切なタイミングでの「支援(サポート)」の方法を教えます。任せられたという「信頼の実感」が、社員を一人前のプロへと変貌させます。

リーダー自身の「未完成さ」を認める勇気

リーダーもまた、一人の学習者です。HRは、リーダーが「自分もまだ勉強中である」と部下にさらけ出す(脆弱性の開示)ことを推奨しましょう。心理学的に、完璧な上司よりも、成長しようと努力している上司の方が、部下の共感と信頼を得やすく、学び合い(共育)の雰囲気が生まれやすくなります。この「共に歩む」姿勢が、組織の活性化を支える芯となります。

まとめ:学び続ける勇気が、組織の未来を照らす。

「教育」という言葉を、「共育」へと書き換える。それは、社員を「操作する対象」ではなく「共に未来を創るパートナー」として尊重する、真摯な決意表明です。

ドラッカーは言いました。「知識は常に古くなる。だから、学び続けること自体が仕事なのだ」と。

地方中小企業という、一人ひとりの顔が見えるコミュニティだからこそ、私たちは世界で一番「学び合いが温かい」組織を作ることができます。

HR担当者の皆さん。あなたが今日設計する「学びの仕組み」や、現場にかける「励ましの言葉」が、数年後のあなたの組織を支える太い柱となります。教育とは、即効薬ではなく、漢方薬のようなものです。真面目に、誠実に続けていきましょう。

就職活動中や、キャリアの岐路にいる学生の皆さんも、覚えておいてください。完成された自分である必要はありません。大切なのは「学び続け、成長しようとする真摯な意志」です。その意志がある限り、あなたはどこへ行っても、誰からも信頼されるプロフェッショナルになれます。

2026年。変化を恐れるのではなく、学びを楽しみ、共に育ち合う。そんな「活性化の風」があなたの組織に吹き抜けることを、私は心から願っています。

あなたの挑戦を、私はいつも誇りに思っています。さあ、共に学びを始めましょう!

関連記事

人事パーソン向け

学生向け

TOP
TOP